“保守的な”ハビタブルゾーンを公転する太陽系外惑星を発見 直径は地球の約1.55倍
【▲ 保守的なハビタブルゾーンに位置するとみられる太陽系外惑星「TOI-715 b」(右)の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

バーミンガム大学のGeorgina Dransfieldさんを筆頭とする研究チームは、「とびうお座(飛魚座)」の方向約137光年先の恒星「TOI-715」を公転する太陽系外惑星を発見したとする研究成果を発表しました。この系外惑星はTOI-715のハビタブルゾーン内にあるとみられており、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」などによる追加観測に期待が寄せられています。

【▲ 保守的なハビタブルゾーンに位置するとみられる太陽系外惑星「TOI-715 b」(右)の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】
【▲ 保守的なハビタブルゾーンに位置するとみられる太陽系外惑星「TOI-715 b」(右)の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

研究チームが発見を報告した系外惑星は「TOI-715 b」と呼ばれています。直径は地球の約1.55倍で、主星であるTOI-715を約19.29日周期で公転しているとされています。TOI-715は太陽と比べて直径は約0.24倍・質量は約0.22倍、表面温度は約2800℃(約3075ケルビン)のM型星です。TOI-715 bはトランジット法を利用して系外惑星を捜索しているアメリカ航空宇宙局(NASA)の系外惑星探査衛星「TESS(テス)」の観測データから見つかり、チリのセロ・パチョンにあるジェミニ天文台の「ジェミニ南望遠鏡」など地上の望遠鏡による観測で確認されました。

研究チームによると、TOI-715 bは恒星の周囲に広がるハビタブルゾーンの中でも条件がより厳しい“保守的なハビタブルゾーン”(conservative habitable zone、惑星の歴史の大半の期間を通して表面に液体の水が存在し得る領域)に位置していて、推定される表面の平衡温度(※)は約マイナス39℃(約234ケルビン)です。TESSの観測によって保守的なハビタブルゾーン内の系外惑星が見つかったのはTOI-715 bが初めてだとされています。

※…大気の存在を考慮せず、主星から受け取るエネルギーと惑星から放射されるエネルギーだけを考慮した温度。たとえば地球の平衡温度は約マイナス18℃ですが、温室効果によって平均気温は約14℃に保たれています。

また、TOI-715 bとは別の系外惑星が存在する可能性も研究チームは指摘しています。2つ目の系外惑星候補は直径が地球の約1.07倍で、TOI-715を約25.61日周期で公転している可能性があります。仮にこの惑星が実在する場合、公転軌道はTOI-715のハビタブルゾーン外縁のすぐ内側に位置することから、TESSの観測で発見されたハビタブルゾーン内の最小の惑星となるかもしれないといいます。

ただ、TOI-715 bは質量の値を含む詳しい性質がまだわかっておらず、地球のような岩石惑星だけでなく、表面を厚い水の層に覆われた海洋惑星の可能性も考えられるようです。質量を知るための視線速度法による詳細な観測や、ウェッブ宇宙望遠鏡による(存在するかもしれない)大気の透過スペクトルの観測を通して、より詳しい性質が明らかにされることが期待されています。

研究チームの成果をまとめた論文はMonthly Notices of the Royal Astronomical Societyに掲載されています。

■トランジット法・視線速度法・透過スペクトル

系外惑星の観測では「トランジット法」と「視線速度法(ドップラーシフト法)」という2つの手法が主に用いられています。

「トランジット法」とは、系外惑星が主星(恒星)の手前を横切る「トランジット(transit)」を起こした際に生じる主星の明るさのわずかな変化をもとに、系外惑星を間接的に検出する手法です。

繰り返し起きるトランジットを観測することで、その周期から系外惑星の公転周期を知ることができます。また、トランジット時の主星の光度曲線(時間の経過にあわせて変化する天体の光度を示した曲線)をもとに、系外惑星の直径や大気の有無といった情報を得ることも可能です。

【▲ 参考動画:系外惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子を示した動画】
(Credit: ESO/L. Calçada)

もう一つの「視線速度法」とは、系外惑星の公転にともなって円を描くようにわずかに揺さぶられる主星の動きをもとに、系外惑星を間接的に検出する手法です。

惑星の公転にともなって主星が揺れ動くと、光の色は主星が地球に近付くように動く時は青っぽく、遠ざかるように動く時は赤っぽくといったように、周期的に変化します。こうした主星の色の変化は天体のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を得る分光観測を行うことで検出されています。視線速度法の観測データからは系外惑星の公転周期や最小質量を求めることができます。

【▲ 参考動画:系外惑星の公転にともなって主星のスペクトルが変化する様子を示した動画】
(Credit: ESO/L. Calçada)

また、系外惑星がトランジットを起こしている時の主星の光には、系外惑星の大気(存在する場合)を通過してきた光もわずかに含まれています。惑星の大気を通過してから届いた主星のスペクトルは「透過スペクトル」と呼ばれていて、系外惑星の大気に含まれる物質が特定の波長の電磁波を吸収したことで生じる暗い線「吸収線」が現れます。透過スペクトルを通常のスペクトルと比較すればどのような吸収線が現れているのかがわかるので、系外惑星の大気組成を調べることができます。

【▲ 参考画像:恒星(左)の光を利用して系外惑星(中央下)の大気組成を調べる手法のイメージ図。系外惑星の大気を構成する物質が一部の波長を吸収するため、大気を通過して地球(右)に届いた主星の光のスペクトル(透過スペクトル)を分析することで、惑星の大気組成を調べることができる。また、大気にヘイズ(もや)がある場合は青い光が散乱して、通過した光は少し赤くなる(Credit: ESO/M. Kornmesser)】
【▲ 参考画像:恒星(左)の光を利用して系外惑星(中央下)の大気組成を調べる手法のイメージ図。系外惑星の大気を構成する物質が一部の波長を吸収するため、大気を通過して地球(右)に届いた主星の光のスペクトル(透過スペクトル)を分析することで、惑星の大気組成を調べることができる。また、大気にヘイズ(もや)がある場合は青い光が散乱して、通過した光は少し赤くなる(Credit: ESO/M. Kornmesser)】

 

Source

  • NASA - Discovery Alert: A ‘Super-Earth’ in the Habitable Zone
  • Dransfield et al. - A 1.55 R⊕ habitable-zone planet hosted by TOI-715, an M4 star near the ecliptic South Pole (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)

文/sorae編集部