約40光年先に地球サイズの太陽系外惑星を発見 地球と金星の違いを探るヒントが得られるかも?
【▲ 赤色矮星「グリーゼ12」(左)を公転する太陽系外惑星「グリーゼ12 b」(右)の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (Caltech-IPAC))】

自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの葛原昌幸特任助教を筆頭とする研究チームと、サザンクイーンズランド大学の博士課程学生Shishir Dholakiaさんを筆頭とする研究チームは、「うお座(魚座)」の方向約40光年先で見つかった太陽系外惑星「Gliese 12 b(グリーゼ12 b)」に関する研究成果を発表しました。

【▲ 赤色矮星「グリーゼ12」(左)を公転する太陽系外惑星「グリーゼ12 b」(右)の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (Caltech-IPAC))】
【▲ 赤色矮星「グリーゼ12」(左)を公転する太陽系外惑星「グリーゼ12 b」(右)の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (Caltech-IPAC))】

グリーゼ12 bは直径が地球の約0.958倍、質量が地球の約3.87倍以下と推定される系外惑星で、主星である赤色矮星(M型星)「Gliese 12(グリーゼ12)」から約0.0668天文単位(※)離れた軌道を約12.76日周期で公転しているとみられています。グリーゼ12は直径と質量がどちらも太陽の4分の1程度で、表面温度は太陽よりも2500℃ほど低い約3000℃です。

※…1天文単位(au)=約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来。

主星のグリーゼ12は太陽よりも小さく軽い恒星ですが、その近くを公転するグリーゼ12 bが受け取るエネルギーは地球の1.6倍(金星の約85%)で、大気が存在しないと仮定した場合の表面温度は約42℃(314.6K)と算出されています。

【▲ 地球(左)とグリーゼ12 b(右)の比較図。グリーゼ12 bは大気のない状態から厚い大気を持つ状態まで3パターンで描かれている(Credit: NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (Caltech-IPAC))】
【▲ 地球(左)とグリーゼ12 b(右)の比較図。グリーゼ12 bは大気のない状態から厚い大気を持つ状態まで3パターンで描かれている(Credit: NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (Caltech-IPAC))】

グリーゼ12 bはそれ自体と主星の特性をもとに、金星のような惑星の大気の特徴を調べる上で最も適した惑星だと受け止められています。

地球と金星は直径や質量が近いことから双子のような惑星だと表現されることもありますが、二酸化炭素を主成分とした金星の大気は地球の大気とは大きく異なります。硫酸の雲に覆われた金星の地表は約460℃・約90気圧という過酷な環境です。どうして地球と金星では表層の環境にこれほどの違いがあるのか、はっきりしたことはまだわかっていません。そこで現在、5600個以上が見つかっている系外惑星のなかから地球や金星に似た性質を持つとみられる惑星の調査を通じて、地球と金星の環境を分けた原因を探る研究が進められています。

その一つとして注目されていたのが「みずがめ座(水瓶座)」の方向約40光年先にある「TRAPPIST-1 c(トラピスト1 c)」です。トラピスト1 cは直径が地球の約1.10倍、質量が地球の約1.31倍で、主星である赤色矮星「TRAPPIST-1(トラピスト1)」から受け取るエネルギーは地球の約2.2倍とみられています。ところが、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」による観測データを分析した研究では、トラピスト1 cに金星のような厚い大気は存在しない可能性が指摘されました。

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トラピスト1 cの大気はトラピスト1から放出される強い恒星風や紫外線・X線によって大半が失われてしまったと考えられていますが、その一方でグリーゼ12 bの主星であるグリーゼ12はトラピスト1と比べてX線の強度が1桁低く、主星からの距離はトラピスト1 cよりもグリーゼ12 bのほうが4倍以上離れています。したがってグリーゼ12 bは一定量の大気を保持している可能性が高く、大気の観測・分析を行えるのではないかと期待されているのです。

また、赤色矮星であるグリーゼ12はグリーゼ12 bの公転にともなって生じるふらつきを「視線速度法」で検出したり、グリーゼ12 bが手前を通過する時に生じる明るさの変化を「トランジット法」で検出したりしやすいというメリットがあります。系外惑星の観測で用いられる手法については以下の関連記事をご参照下さい。

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惑星で生命の存在に適した環境が整う条件についての理解を深めることは、「地球は特別な惑星なのか、それとも宇宙ではありふれた存在のひとつなのか」という根源的な問いの答えを得ることにつながります。グリーゼ12 bが主星から受け取るエネルギーを考慮すれば仮に液体の水が表面に存在したとしても暴走的に蒸発してしまう可能性が高いと考えられていますが、惑星の表面に液体の水が安定して存在するかどうかは入射エネルギーだけでなく大気の量や組成にも左右されます。

葛原さんはウェッブ宇宙望遠鏡や地上の大型望遠鏡による将来のグリーゼ12 bの観測によって「この惑星がどのような大気を持つのか、水蒸気、酸素、二酸化炭素などの生命に関連のある成分が存在するのか、明らかになる」と期待を寄せています。また、Dholakiaさんの研究チームの一員であるエディンバラ大学/ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの博士課程学生Larissa Palethorpeさんは、グリーゼ12 bの表面温度が地球と金星の間に位置することから「その大気は惑星が成長する過程でたどり得る居住可能性の経路について多くのことを教えてくれるでしょう」とコメントしています。

 

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文・編集/sorae編集部

Last Updated on 2024/05/31