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太陽系の外側にある「太陽系外縁天体 (※1)は、形成時に取り込んだ揮発性物質(低温でも蒸発しやすい成分)を現在でも保持しているのではないかと考えられています。しかし、揮発性物質がどのような形で保持されているのか、あるいはどのようにして徐々に失われているのか、その詳細はこれまでよく分かっていませんでした。

ブラウン大学のSamuel P. D. Birch氏とSETI協会のOrkan M. Umurhan氏の研究チームは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の冥王星探査機「ニュー・ホライズンズ」が接近探査を行った486958番小惑星「アロコス」の観測データを元に、内部構造をモデル化した研究を行いました。その結果、アロコスのような小さな天体では地下の奥深くで気化した一酸化炭素が滞留し、それ以上の揮発が抑えられている可能性があることが判明しました。これは、アロコスのような天体は非常に原始的であり、失われやすい物質を保持し続けている可能性を示しています。(※2)(※3)

【▲図1: ニュー・ホライズンズの撮影画像と観測値によって作成された、アロコスのトゥルーカラー画像。 (Image Credit: NASA, Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory, Southwest Research Institute & Roman Tkachenko) 】
【▲図1: ニュー・ホライズンズの撮影画像と観測値によって作成された、アロコスのトゥルーカラー画像。(Credit: NASA, Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory, Southwest Research Institute & Roman Tkachenko)】

■最も原始的な天体は太陽系の外側にある

太陽とその周囲の天体は今から約46億年前に誕生したと言われています。地球のように活動の激しい天体は誕生から様々な変質の過程があり、元の情報はほぼ残されていません。対して、小惑星や彗星のような小さな天体は、数十億年に渡ってほとんど変質を受けていないと推定されています。それでも、試料の採取に成功した小惑星「イトカワ」や「リュウグウ」の物質を分析すると、いくらかの変質の痕跡が見つかります。

では、イトカワやリュウグウよりもさらに変質を受けていない、原始的な天体はあるのでしょうか?例えば、海王星よりも太陽から遠い場所を公転する「太陽系外縁天体」は有力な候補です。太陽系外縁天体は誕生時から現代にいたるまで太陽から非常に離れた場所を公転していたため、熱などの重大な変質を経験していないと見られています。

太陽系外縁天体の一部は、稀に公転軌道が大きく変化して太陽の近くを通過する場合があります。すると、揮発性物質が蒸発して一時的な大気や尾が形成されます。これが「彗星」と呼ばれる天体です。彗星は詳細な研究が可能ですが、太陽の近くに長期間いた結果、ある程度の揮発性物質を放出していて原始的な物質は失われていると推定されています。

彗星が真の意味で原始的ではないと推定される根拠の1つは、放出される一酸化炭素の量です。より原始的な天体には固体成分の主成分として一酸化炭素が大量にあるため、このような天体が彗星となった場合は蒸発して生じる大気にも二酸化炭素を上回る量の一酸化炭素が含まれると考えられます。一方で、一酸化炭素は二酸化炭素と比較して蒸発しやすく、かなり早い段階で蒸発しきってしまうと考えられています。

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実際、観測された彗星の大気に含まれる一酸化炭素の量は、二酸化炭素と比べると極めて少ない量しかありません。わずかな一酸化炭素は、蒸発しにくい氷の微細な隙間に含まれているものが少しずつ湧き出していると推定されています。

■「アロコス」の一酸化炭素は予測とは裏腹に検出されず

もしも太陽系外縁天体が非常に原始的な天体である場合、そこには固体の一酸化炭素が大量に保持されていると考えられます。一酸化炭素はその大部分が保持されつつも、数十億年かけて少しずつ蒸発します。このため、太陽系外縁天体からはわずかながらも観測可能な一酸化炭素の大気や、その流出が観測されるはずです。

太陽系外縁天体は文字通り太陽系外縁部にあるため、このような観測はこれまでできませんでした。今のところ、唯一の観測記録となっているのはNASAの冥王星探査機「ニュー・ホライズンズ」による小惑星「アロコス」の接近観測です。ニュー・ホライズンズは2015年に史上初となる冥王星への接近探査を終えた後、2019年1月1日にアロコスへの接近探査を行いました。

アロコスはその小ささなどから、形成後にほとんど変質を受けていない、まさに原始的な太陽系外縁天体であると推定されています。このため、ニュー・ホライズンズの接近探査という貴重な観測機会に、アロコスから流出する一酸化炭素の検出が期待されていました。しかし、実際にはアロコスの観測データからは一酸化炭素が見つからないという、予想外の発見となりました。

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この結果を単純に適用すると、実はアロコスは全く原始的ではなく、大きく変質した天体なのかもしれません。しかし、アロコスの物理的な外観や表面の観測結果、公転軌道などは、アロコスが今と同じ軌道を長期間維持していて、ほぼなにも変化していない可能性が高いことを示しています。

■アロコスで検出できなかったことが原始性の証明になるモデルを構築

【▲図2: 今回の研究で作成された太陽系外縁天体のモデル。多孔質構造の内部では時間が経っても一酸化炭素が滞留しており、固体から気体への変化が抑えられていると予測されました。 (Image Credit: SETI Institute) 】
【▲図2: 今回の研究で作成された太陽系外縁天体のモデル。多孔質構造の内部では時間が経っても一酸化炭素が滞留しており、固体から気体への変化が抑えられていると予測されました(Credit: SETI Institute)】

Birch氏とUmurhan氏の研究チームは、アロコスのような小さな太陽系外縁天体の内部構造をモデル化し、一酸化炭素が検出されなかった理由を調査しました。このような小さな天体は、小さな岩石の粒が緩く結合してスポンジのような隙間の多い多孔質構造を形成していると考えられています。両氏は一酸化炭素の固体を含む多孔質構造の天体の中で、蒸発して気体となった一酸化炭素の挙動の解析を行いました。

その結果、表面に近い部分からは一酸化炭素が逃げ出す一方で、地下深くでは多孔質構造の隙間に徐々に溜まり、宇宙空間へ逃げ出す量はあまり多くないことが分かりました。まるで、天体の内部で “地下大気” が形成されているかのようです。このような場所では、一酸化炭素がこれ以上気化することが抑えられます。そして、変化に乏しい地下深くの一酸化炭素は、滅多なことでは宇宙空間へと逃げ出すことはありません。

このモデルを見る限りでは、誕生から十分に時間が経過したアロコスは表面に近い部分で一酸化炭素が枯渇した一方、地下深くの一酸化炭素は滞留して逃げ出さないことになります。ニュー・ホライズンズの接近観測でアロコスの一酸化炭素を検出できなかったのは、これが理由である可能性があります。その場合、アロコスは本当に原始的な天体であり、一酸化炭素に限らず形成当時の揮発性物質が大量に保存されている可能性もあります。

今回のモデルが妥当かどうかを検証するためには、アロコスと似たような性質を持つ天体を複数観測する必要があります。近年打ち上げられた「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」は、遠く離れた天体に探査機を送り込まずとも、太陽系外縁天体の一酸化炭素や二酸化炭素の流出を観測できる性能があります。アロコスのような天体が本当に原始的かどうかは、案外すぐに判明するかもしれません。

■注釈

※1…元の論文では、アロコスなどのような天体を「カイパーベルト天体(KBO)」と表現していますが、この呼称には論争があります。本記事ではより論争が少ない「太陽系外縁天体」の表現を使用します。

※2…今回の研究のように、ほとんど真空の環境での揮発性物質の相転移は、固体から気体へ、気体から固体へと直接変化します。固体から気体の相転移を「昇華」、気体から固体への相転移を「凝華」と呼び、厳密にはこれで表現するのが正しいのですが、本記事では分かりやすさを優先しており、使用していません。

※3…今回の研究でモデル化された天体内部では、一酸化炭素の気化(昇華)と固化(凝華)がほぼ同じスピードで起こっているため、見た目の上では一酸化炭素の気化が抑えられている状態となっています。本来はこの「平衡状態」で表現するのが正しいのですが、本記事では分かりやすさを優先しており、使用していません。

 

Source

文/彩恵りり

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