
太陽は私たち人類をはじめとする多くの生命にとって欠かせない存在ですが、その活動は現代の文明にとって脅威となり得ます。
太陽活動が活発な時期に発生しやすくなる太陽嵐は、地球に到来すると地磁気を乱して磁気嵐を発生させます。磁気嵐は現代の情報化社会で欠かせないGPSなどの測位システム、ラジオなどの通信、地上の電力網といったインフラに障害を引き起こす可能性があり、重大な影響をもたらしかねないのです。
太陽嵐の正体は、強力な電磁波と高エネルギー粒子、そしてCME(コロナ質量放出)と呼ばれる大量のプラズマ放出です。太陽活動にともなう宇宙環境の変動は宇宙天気と呼ばれていて、宇宙機関や気象機関などが監視・予報に取り組んでいます。

銀河宇宙線の観測データが宇宙天気予報の精度向上に?
今回、東京大学大学院の木下岳さんを筆頭とする研究チームは、太陽活動の観測用に準備されたものではない装置で取得されたデータも利用して、宇宙天気の予報精度向上につながるICME(惑星間空間コロナ質量放出物、CMEで放出された磁気フラックスロープとそこに閉じ込められたプラズマからなる構造)の観測手段の実証に成功したとする研究成果を発表しました。
木下さんたちが着目したのは、超新星爆発などで加速された高エネルギー粒子である「銀河宇宙線」です。
銀河宇宙線は太陽系の外から絶えず降り注いでいますが、ICMEの到来時には粒子の移動方向が磁場によって変化することで、検出数が一時的に減少します。この性質を利用し、太陽に近い場所と遠い場所で検出した銀河宇宙線のデータを組み合わせることで、変化していくICMEの性質を間接的に捉えることができるというのです。
研究チームは2022年3月に発生したCMEを対象として、4つの探査機で取得されたデータをもとに、ICMEと銀河宇宙線の検出数減少にみられる対応関係を分析しました。
データを利用した探査機は、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の太陽探査機「Solar Orbiter(ソーラー・オービター)」、ESAとJAXA(宇宙航空研究開発機構)の水星探査機「BepiColombo(ベピコロンボ)」、それにNASA(アメリカ航空宇宙局)の月周回衛星「LRO(ルナ・リコネサンス・オービター)」と無人探査機「Wind(ウィンド)」です。

当時、Solar OrbiterとBepiColomboは太陽から同じくらいの距離(約0.43~0.44天文単位)にありつつ、経度では約49度離れていたので、ICMEの方位角方向(わかりやすく言えば“地球から見た横方向”)の違いを捉えるのに良い配置でした。
また、Solar Orbiterは地球の近くにあるLROおよびWind(月周回軌道と太陽-地球のラグランジュ点L1周辺)と太陽の間に位置したため、動径方向(わかりやすく言えば“地球から見た視線方向”)の違いを捉えるのに良い配置でもありました。
研究チームがデータを分析した結果、ICMEの進化に対応した銀河宇宙線の検出数の変化を追跡することに成功したということです。

分析に用いられたデータのうち、BepiColomboが取得した銀河宇宙線のデータは科学観測用の機器で取得されたものではありませんでしたが、環境測定用として常に稼働する機器で取得されているため、観測機会が限定されるCME用の観測機器と比べて継続的にデータを得られるメリットがあるといいます。
東京大学のプレスリリースでは「もったいない精神」と表現された、今回の銀河宇宙線データの活用。太陽-地球間で運用される宇宙機は今後増えていくと予想されることから、太陽からの放出物が宇宙空間を伝播する様子をより完全に理解できるようになると、木下さんは期待しています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- 東京大学 - 「もったいない精神」で宇宙の天気を読む ー複数探査機の多点比較から宇宙線変動と太陽プラズマの関係を解明ー
- 東京大学 - The path to solar weather forecasts
- Kinoshita et al. - Spatiotemporal Evolution of the 2022 March Interplanetary Coronal Mass Ejection Revealed by Multipoint Observations of Forbush Decreases (The Astrophysical Journal)
























