
地球から最も隔絶された環境の宇宙ステーションには独特の微生物叢(微生物の種類や量)が形成されており、時々新種の細菌が見つかることもあります。これらの細菌はその状況から、宇宙ステーションで突然変異したのではなく、たまたま地球上よりも先に宇宙ステーションで見つかっただけだと捉えるのが自然です。
アメリカ航空宇宙局(NASA)エイムズ研究センターのFathi Karouia氏とブルーマーブル宇宙科学研究所のLorraine Christine de Oliveira氏を筆頭とする研究チームは、国際宇宙ステーション(ISS)で採集されたサンプルを分析した結果、新種の細菌の発見を報告し、「マイクロバクテリウム・メイリアエ(Microbacterium meiriae)」と名付けました(※1)。
※1…種小名の読みは論文の表記に準拠。
興味深いことに今回は、ISSで発見されたのと同じ新種が、地球上のイモリの皮膚にも生息していることが同時に報告されました。これはデータベースの探索で分かったことであり、誤って別の種に分類された結果、今回の研究で初めて気づかれるまで、新種であることが見逃されていました。宇宙ステーションのサンプルから見つかった新種が、地上にも生息していることが、後追いではなく同時に報告されるのは珍しいケースです。
宇宙ステーション発の新種の細菌は意外と多い

宇宙ステーションは、地球から最も隔絶された場所であると言えるでしょう。地上から遠く離れた真空の宇宙空間に浮かんでいる宇宙ステーションは、一見すると生物とは最も縁遠い場所であるように思えます。
しかし実際には、様々な微生物がヒト・物資・機材に付着した状態で宇宙ステーションに持ち込まれ、高い放射線量と乾燥・貧栄養環境に耐えて繁殖しています。このような変わった環境では、地球とは異なる独特の微生物叢が形成されていることがあります。
このような宇宙ステーション内の微生物叢は、定期的にサンプルが採集・分析され、微生物の種が同定されます。その理由の1つは、ユニークな微生物叢を調査するという、純粋な科学的興味もあります。しかし一方で、宇宙飛行士の健康を脅かすおそれのある微生物がいないかどうかを検査するというリスクマネジメントの側面もあります。そのような検査の過程で、これまで知られていなかった新種の微生物を見つけることもあります。
筆者が知る限り、これまでに「国際宇宙ステーション(ISS)」では少なくとも8種類、中国の宇宙ステーション「天宮」では1種類の細菌が発見されています。
- ISSで発見された新種の細菌
- ソリバシラス・カラームイイ(Solibacillus kalamii / 2017)
- メチロバクテリウム・アジマリイ(Methylobacterium ajmalii / 2021)
- カラーミエラ・ピエルソニイ(Kalamiella piersonii / 2019)
- アルスロバクター・バーディックイイ(Arthrobacter burdickii / 2023)
- レイフソニア・ヴァーツイイ(Leifsonia virtsii / 2023)
- レイフソニア・ウィリアムズイイ(Leifsonia williamsii / 2023)
- パエニバシラス・ヴァンデハイイ(Paenibacillus vandeheii / 2023)
- スポロサルシナ・ハイランダーアエ(Sporosarcina highlanderae / 2023)
- 天宮で発見された新種の細菌
- ニアリア・ティアンゴンゲンシス(Niallia tiangongensis / 2025)
ISSの新種「マイクロバクテリウム・メイリアエ」はイモリの皮膚で “発見済み” だった?
Fathi Karouia氏とLorraine Christine de Oliveira氏を筆頭とする研究チームはこのほど、ISSのサンプルから、新たな細菌の発見を報告しました。今回の研究では最初に、ISSの住居区画内で2017年から2018年にかけて採集されたサンプルを分析しました。ゲノム配列から細菌種の同定作業を行ったところ、マイクロバクテリウム属(Microbacterium)と同定された細菌のうちの4株(※2)に、これまでに知られていない遺伝的特徴が含まれているのを見つけました。
※2…「F6-8S-P-2B株」をタイプ株とし、他に「F6-8S-P-3B株」「F6-8S-P-3C株」「F6-8S-P-3A株」が記録されています。

他のマイクロバクテリウム属とのゲノム配列との比較を行った結果、研究チームは、この4株が既に知られているマイクロバクテリウム属とは異なる種であることを提案し、新種「マイクロバクテリウム・メイリアエ(Microbacterium meiriae)」として記載しました。この学名は、NASAの宇宙飛行士であり、スウェーデン国籍の女性として初めて宇宙に到達した「ジェシカ・ウルリカ・メイヤー」に対する献名です。
そして興味深いことに、今回はISSのサンプルと同時に、地球上のサンプルでも同じ種類の細菌がいることが併せて報告されました。後の研究で明らかになったのではなく、同時に報告されたという点では珍しいケースです。

地上にいるマイクロバクテリウム・メイリアエ(LTR1株)は、2022年にロシア西部に生息するスベイモリ(Lissotriton vulgaris)の皮膚から採集・記録されていました。この株のゲノム配列などの情報は既にデータベースに記載されていたものの、これまでは誤って、既に知られている別種として同定されていたため(※3)、新種として気づかれていませんでした。はるか上空のISSで新種の細菌を見つけたと思ったら、実は地上を這うイモリの皮膚で先に見つかっていたという経歴は少し面白いものがあります。
※3…誤ってマイクロバクテリウム・パラオキシダンス(Microbacterium paraoxydans)と同定されていました。今回の研究で、マイクロバクテリウム・メイリアエとマイクロバクテリウム・パラオキシダンスはかなり近い関係であるものの、それでも種を分けられるほどの違いがあることが示されました。
すぐさま心配する必要はないが、長期的には注視する必要あり

さて、「宇宙ステーションから新種の細菌を発見」というニュースを表面的に捉えれば、これらの新種の細菌は宇宙ステーションの特殊な環境で突然変異的に誕生したと思う方がいるかもしれません。この点について多くの科学者は「宇宙ステーションで見つかった新種は、それに近い種が地球上に豊富に生息しているため、たまたま宇宙ステーションが最初の発見場所となっただけである」と説明していますが、疑り深い人はそれでも突然変異を疑うかもしれません。
しかし今回記載されたマイクロバクテリウム・メイリアエは、先に地球上で見つかっているという点で異なります。ロシア産イモリの皮膚という、ISSとはかなり縁遠い場所で見つかっていることからも、「たまたま宇宙ステーションが最初の発見場所となっただけである」という主張を議論の余地なく裏付けているでしょう。
そして一般論として、何かしらのサンプルを分析すれば、細菌やそれ以外の微生物のゲノム配列が無数に見つかります。ゲノム配列が正確に読み取れないことも珍しくないため、種の同定を誤ったり、そもそも種を特定できないケースは頻繁にあります。宇宙ステーションの新種が地上にいるだろうと言われているのは、地上のサンプルを分析した結果が完璧とは程遠く、今回のような見逃しがあるのも珍しくないことが予想されるためです。
とはいえ、今回の研究の元となったISSのサンプルは、宇宙飛行士の健康を守るための目的で採集されている点にも留意する必要があります。もちろん現時点では、マイクロバクテリウム・メイリアエに何らかの病原性があることは証明されていません。
また、宇宙ステーションで見つかった細菌と同じ種、もしくはそれに近い種がヒトの患者から見つかった例があり、一部は死亡例もあります。しかしそれは、高齢や特定の疾患によって免疫機能が低下している人に現れた日和見感染症としての事例であり、免疫が正常に働いている健康な人には心配のない病気です。現在の宇宙飛行士は心身共に健康な人が採用されるため、現時点ではすぐさま、宇宙飛行士の健康が脅かされている状況にあるとは言えません。
といっても、過度な心配は不要なものの、宇宙ステーションという物資や治療に制限がある環境においては、完全に油断しきっても良いというわけではないかもしれません。また、今後は民間人の宇宙旅行のハードルがどんどん下がっていく時代ですので、近い将来、健康面が万全ではない人が宇宙に行くケースも増えていくことでしょう。宇宙ステーションで見つかる新種の微生物は、今すぐに対策する必要はないものの、長期的には注視する必要があるでしょう。
ひとことコメント
宇宙ステーションの新種の細菌は実際には地上で見つかるものだ、というのをこれまでになく裏付ける発見だよ!(筆者)
文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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