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ユナイテッド機に衝突したのは気象観測気球の可能性 宇宙からの落下物の可能性は低い

2025年10月16日、「ユナイテッド航空1093便」のコックピットの窓ガラスが破損する事故が発生しました。高度約1万1000m(3万6000フィート)という高度で発生した事故ながら、明らかに物体が衝突したように見えることから、衝突した物体は隕石やスペースデブリ(宇宙ゴミ)ではないかと話題になりました。

事故は発生したばかりであり、正式な報告は当分先となりそうですが、今のところ宇宙からの落下物である可能性は低いと思われます。衝突した物体の正体は気象観測気球である可能性が高そうです。

発生した事故の概要

一般的な民間旅客機は、離着陸の時以外は、高度1万m前後の巡航高度を飛行します。空気抵抗が小さく燃費が良くなり、悪天候に見舞われるリスクが低くなることなどが理由として挙げられます。航空機は決められた高度と方向で飛び、お互いの衝突を避けることから、普通ならこの高度で何かがぶつかることを考慮することはありません。

図1: 今回の事故と同型の、ユナイテッド航空が所有するボーイング737 MAX-8。事故にあった機体とは別のものであることに注意。(Credit: Acroterion)
【▲ 図1: 今回の事故と同型の、ユナイテッド航空が所有するボーイング737 MAX-8。事故にあった機体とは別のものであることに注意。(Credit: Acroterion)】

しかし今回、その常識が通用しない事故が発生しました。2025年10月16日、就航から2年ほどのボーイング737 MAX-8を使用した「ユナイテッド航空1093便」は、デンバー国際空港を離陸後、ロサンゼルス国際空港へ向かうため、予定通り高度約1万1000mの巡航高度に達しました。

ところが巡航高度に達してから間もなく、コックピットの窓ガラスがひび割れる事故が発生しました。事態発生後、同便は進路を変更してソルトレイクシティ国際空港へダイバート(代替着陸)しました。幸いにして重症者や与圧低下などの重大事故に発展することは無かったものの、この事故は珍しい特徴から注目を集める事となりました。

コックピットの窓ガラスがひび割れることは、頻繁にある出来事とは言えないまでも、珍しい事故ではありません。しかしながら、その理由の多くは雹や鳥との衝突、および温度変化によるストレスであり、低い高度で発生するものです。また、窓ガラスは多層構造になっており、ひび割れるような状況でも1層のみが割れ、他の層が割れずに済むように設計されています。


しかし今回の場合、巡航高度という高高度で、数層に渡るひび割れが発生、副操縦士が軽傷を負ったという点がとても珍しいです。コックピット内にガラスの破片と思われるものが散乱した様子や、腕のケガの写真がSNSにも投稿されていました。さらに、窓ガラスやその周辺には、明らかに何かが衝突したような跡が確認できるという点が異常でした。

宇宙からの落下物が衝突した可能性はあるのか?

航空業界関係者のX(旧Twitter)の投稿では、上述した写真と共に、衝突した物体が隕石やスペースデブリなど、宇宙からの落下物ではないかとする憶測を記載していました。確かに、巡航高度で雹や鳥(※1)に衝突する可能性はゼロとは言えませんが、極めて稀なケースです。明らかに衝突する物体がない状況ならば、さらに上からの落下物を疑いたくもなります。

※1…1973年に発生したマダラハゲワシ(Gyps rueppelli)とのバードストライクは高度1万1300m(3万7000フィート)で発生しました。これは現在においても、鳥類の最高飛行高度記録です。

しかしながら、人工衛星の打ち上げ数が増えた昨今の状況においても、その可能性は低いと考えられます。アメリカ連邦航空局(FAA)がアメリカ合衆国議会に提出した2021年の資料によれば、スペースデブリが航空機に衝突して死傷者が出る可能性は、控えめに見ても1年間で約0.1%であるとのことです。

一見するとそこそこ高い確率に見えますが、これは全世界で1年間に飛ぶ航空機を全て合計したリスクであること、万が一そのような事故があれば多数の死傷者が出ることを考慮した確率であることに注意しないといけません。

例えば、地上にいる世界中の誰か1人にスペースデブリが当たる確率は、1年間で約7.2%と、もっと高いように見えますが、これも全人類を全て足した合計のリスクです。70倍も起きやすい出来事にも関わらず、スペースデブリが人に直撃したニュースは聞いたことがないと思いますが、それほどまでに確率の低い出来事なのです(※2)

※2…スペースデブリは家屋破損などの物損事故が数例記録されていますが、人に直撃した事例はありません。隕石は物損事故だけでなく、人に直撃した事例が(確実なものが)1例記録されています。

このようなリスクは、「あなたが」など、特定の個人に限る確率に修正した方が分かりやすいかもしれません。同報告書では、地上にいる特定の個人にスペースデブリが衝突して重症や死亡するリスクは1年あたり約130億分の1、航空機との衝突によって乗客1人に重症者や死者が生じるリスクは1年あたり約2兆8000億分の1と見積もられています。

気象観測気球との衝突で起きた事故の可能性が高い

この事故は発生したばかりであり、国家運輸安全委員会(NTSB)も調査を開始したばかりです。従って正確な原因が判明するには時間がかかるでしょう。

とはいえ少なくとも、この事故の原因が隕石やスペースデブリである可能性はかなり低いと考えられます。事故から4日後の10月20日にWindBorne社が、公式ブログにて、ユナイテッド航空1093便に衝突したのは自社の気球の可能性が高いと発表したためです。

WindBorne社は、高度な気象予測や大気データの収集に取り組むスタートアップ企業であり、高高度へと揚がる気象観測気球も手がけています。同社のCEOのJohn Dean氏によれば、すでに予備調査の結果をNTSBとFAAに提出しているとのことです。


写真をよく見ると、窓枠の塗装がやすりで削られたように見えます。気球にはバラスト(おもり)として砂が使われているため、砂でこすったかのような傷の原因と考えることができます。この状況証拠は、同社の気球説を後押しします。

もちろん、何も対策せずに気象観測気球を揚げれば、航空機と衝突します。WindBorne社は、これまでの4000回以上の飛行に、航空情報を掲載した「ノータム(NOTAM)」を提出しており、周辺の航空機の空路と交差する可能性に配慮しています。

今のところ、なぜこのような衝突事故が起きたのかは分かっていませんし、これらの対策の有効性の検証はこれからとなります。しかし少なくとも、万が一の衝突時にも重大事故に発展しないよう、気球全体の重量を1.1kg未満に抑えていた対策は功を奏したようです。実際、機体が受けた損傷は最小限で済み、修理を終えた後、現在では商業飛行を再開しています。

WindBorne社は事故を受け、高度9000~1万2000m(3万~4万フィート)の滞在時間を最小限に抑える変更を行っています。また、自律的に航空機を回避するシステムの開発や、万が一の衝突時の衝撃をさらに軽減するための設計変更にも取り組むとのことです。

ひとことコメント

重大事故にならなくてよかった! そして最初に噂されていた宇宙からの落下物説は、どうやら違うっぽいよ(筆者)

 

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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