
こちらは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が観測した、りょうけん座の一角。
遥か彼方の銀河が視野全体に散らばる様子は、有名な「ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド」などの画像を想起させます。

今回注目すべき天体は、この視野内に存在しますが、この画像では見えていません。
持って回った言い方ですが、「ハッブル宇宙望遠鏡でも星を見つけられなかった」ことに意義があるのです。
ガス雲「Cloud-9」では恒星の集団が検出されず
ハッブル宇宙望遠鏡を運用するSTScI=宇宙望遠鏡科学研究所のGagandeep Anandさんを筆頭とする研究チームは、りょうけん座の渦巻銀河「M94」の近くで見つかった「Cloud-9(クラウド9)」と呼ばれるガス雲について、最新の研究成果を発表しました。
Cloud-9は中性水素ガスを含む直径約4900光年のガス雲です。天の川銀河の近くにある水素ガスの雲は長年研究されてきましたが、それらと比べてコンパクトで、なおかつ球形に近いという特徴があります。
中国の500メートル球面電波望遠鏡(FAST)の観測で発見された後、Cloud-9はアメリカのグリーンバンク望遠鏡(GBT)やカール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)による電波での観測が行われてきました。
今回の研究成果に関するNRAO=アメリカ国立電波天文台のプレスリリースによると、Cloud-9に含まれるガスの質量は太陽の約100万倍で、M94と同じ後退速度を示すことから、物理的に関連している可能性が示唆されます。
今回、Anandさんたちがハッブル宇宙望遠鏡の「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」でCloud-9が存在する方向を観測したところ、約1400万光年先(M94と同じ距離)には、暗い矮小銀河に相当するものまで含めて、明確に観測可能な恒星の集団は存在しないことが判明したのです。

ダークマターと中性水素ガスでできた「RELHIC」初の観測例か
ACSの観測結果などをもとに、研究チームは、Cloud-9が「RELHIC(Reionization-Limited H I Cloud)」と呼ばれる理論上の天体の、最初の観測例である可能性を指摘しています。
RELHICはダークマター(暗黒物質)の集まりであるダークマターハローと、中性水素ガスで構成されると考えられている天体です。星を生み出せるほどにはガスが集まらなかった、「銀河になりそこねた天体」と表現できるかもしれません。
Cloud-9を構成するダークマターの質量は、太陽の約50億倍になると推定されています。ガスの質量は前述の通り太陽の約100万倍と推定されていますから、その5000倍のダークマターが集まっていることになります。
RELHICを発見するのは非常に困難です。少なくとも観測可能な星が存在しませんし、周囲の天体から届く電磁波のほうがはるかに強力だからです。それに、Cloud-9の質量の大半を占めるとみられるダークマターは、電磁波では直接観測できない、今も正体が明らかではない謎の物質です。
しかし、近傍の宇宙、別の言い方をすれば現在の宇宙におけるその存在は、銀河の形成の初期段階を垣間見るための貴重な観測対象となり得ます。
Cloud-9がRELHICである可能性を示した今回の成果は、星や銀河といった電磁波で容易に観測できる天体にフォーカスしたこれまでの観測では研究が難しい、宇宙の見えざる構成要素についての新たな知見をもたらすものと受け止められています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- NASA - NASA's Hubble Examines Cloud-9, First of New Type of Object
- ESA/Hubble - Hubble examines Cloud-9, first of new type of object
- NRAO - NSF NRAO Radio Telescopes Help Reveal Cloud-9, a Starless Dark-Matter “Failed Galaxy” Near M94
- Anand et al. - The First RELHIC? Cloud-9 is a Starless Gas Cloud (The Astrophysical Journal Letters)























