ペンシルバニア州立大学教授のChristopher Houseさんを筆頭とする研究グループは、アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査車「Curiosity(キュリオシティ)」によって採取されたサンプルの分析結果をもとに、キュリオシティが探査活動を行っているゲール・クレーターにおける「炭素の安定同位体比」に関する研究成果を発表しました。研究グループによると、一部のサンプルで検出された同位体比は古代の火星における生命活動を示唆する可能性もあるといいます。
■分析されたサンプルの約半数で「炭素12」の存在比が高くなっていた
原子番号6の炭素には「炭素12」および「炭素13」という2つの安定同位体があります。炭素12の原子核は6つの陽子と6つの中性子でできていますが、炭素13の原子核は中性子が1つ多く、6つの陽子と7つの中性子でできています。
自然界における存在比は炭素12が約99パーセント、炭素13が約1パーセントですが、地球では軽い炭素12のほうが生命活動に用いられやすいため、生物由来の有機物に含まれる炭素の安定同位体は炭素12がより多く、炭素13がより少なくなります。サンプルに含まれる炭素の安定同位体比を調べることで、その炭素がどのようなプロセスで循環していたのかを探ることができるのです。
研究グループは今回、ゲール・クレーターの様々な場所で採取された24個のサンプルを分析しました。キュリオシティには採取したサンプルを調べるための科学装置「SAM」(Sample Analysis at Mars、火星サンプル分析装置)が搭載されています。SAMで摂氏850度まで加熱されたサンプルから得られた気体を分析した結果、5つの場所から採取された全体の約半数を占めるサンプルにおいて炭素13が枯渇していた、つまり炭素12の存在比が高くなっていたことが明らかになったといいます。
Houseさんは、炭素13が極端に枯渇していたキュリオシティのサンプルと地球で採取された古代の微生物の生命活動を示すサンプルとの類似性に言及しつつも、火星と地球では環境が大きく異なるため、この結果を地球と同じプロセスで説明できるのか、それとも別のプロセスで説明できるのかを理解する必要があると語ります。今回の研究では検出された炭素の安定同位体比を説明できるプロセスは特定されていませんが、研究グループは3つの仮説を提示しました。
1つ目は「ガスや塵が集まった星間雲を初期の太陽系がたまたま通過した時、太陽光が遮られ寒冷化した火星表面の氷河に有機物を含んだ星間雲由来の塵が積もった」とする『星間雲』説で、2つ目は「火星大気中の二酸化炭素が紫外線と反応し、一酸化炭素を経て生成されたホルムアルデヒドなどの有機物が表面に降り積もった」とする『二酸化炭素の光還元』説。どちらも非生物的なプロセスを想定しています。
そして3つ目は「火星の表面下に生息していた微生物由来のメタンが大気中で紫外線によって光分解され、生成された有機物が表面に降り積もった」とする『生物由来のメタンの光分解』説です。3つの仮説は現在の地球で一般的な炭素循環とは異なる型破りなプロセスを示しているものの、どれも分析結果に適合するとHouseさんは語っており、キュリオシティによるさらなるサンプルの採取と分析に期待しています。
また、NASAは今回の研究について、欧州宇宙機関(ESA)との共同ミッションで地球に持ち帰られる予定のサンプルを集めている火星探査車「Perseverance(パーセべランス、パーシビアランス)」のサンプル採取対象を選ぶ上で、ガイダンスを提供するものだと期待を寄せています。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS
Source: NASA / ペンシルバニア州立大学
文/松村武宏