火星を周回する欧露の探査機「トレース・ガス・オービター(TGO)」を描いた想像図(Credit: ESA/ATG medialab)

【▲火星を周回する欧露の探査機「トレース・ガス・オービター(TGO)」を描いた想像図(Credit: ESA/ATG medialab)】

ロシア科学アカデミー宇宙研究所のIgor Mitrofanovさんを筆頭とする研究グループは、欧州とロシアの火星探査ミッション「エクソマーズ(ExoMars)」の周回探査機「トレース・ガス・オービター(TGO)」による観測データをもとに、マリネリス峡谷中央部の表面下に大量の水が存在する可能性を示した研究成果を発表しました。

■谷底の表面下に大量の水の氷が存在する可能性。将来の有人探査で活用も?

マリネリス峡谷は火星の赤道付近にある長さ約4000kmの長大な渓谷です。欧州宇宙機関(ESA)によると、アメリカのグランドキャニオンに対してマリネリス峡谷の長さは10倍谷底までの深さは5倍に達するといいます。

研究グループは今回、TGOに搭載されている高分解能中性子検出器「FREND」を使い、火星の表面から放出された中性子を2018年5月から2021年2月に渡って観測しました。研究に参加したロシア科学アカデミー宇宙研究所のAlexey Malakhovさんによると、この中性子は太陽系外から飛来する高エネルギーの銀河宇宙線が火星に衝突した際に生成されるもので、湿った土壌よりも乾燥した土壌のほうがより多くの中性子を放出するのだといいます。

つまり、火星表面からどれくらいの中性子が放出されているのかを調べることで、場所ごとの水分量を推定できるというのです。研究グループによると、マリネリス峡谷の中央付近、オランダの面積に匹敵するエリアに非常に大量の水素が存在することを、FRENDによる中性子の観測データは示していたといいます。

TGOの中性子検出器「FREND」の観測結果を示した図。「C」で示されたエリアは表面から比較的浅いところにある物質の約40パーセントを水が占めている可能性があるという(Credit: I. Mitrofanov et al. (2021))

【▲TGOの中性子検出器「FREND」の観測結果を示した図。「C」で示されたエリアは表面から比較的浅いところにある物質の約40パーセントを水が占めている可能性があるという(Credit: I. Mitrofanov et al. (2021))】

検出された水素は水分子(H2O)の一部としての形で、もしくは水酸基(OH、ヒドロキシ基)を含む含水鉱物に取り込まれた形で存在すると考えられています。Malakhovさんは、今回大量の水素が検出されたエリアの鉱物には通常数パーセント程度しか水が含まれないことから「氷として存在する可能性が高い」と総合的に判断しており、地球の永久凍土との類似性を指摘しています。

Mitrofanovさんによると、もしも水素が水分子の形で存在しているとすれば、このエリアの表面から比較的浅いところにある物質の半分近く(約40パーセント)を水が占めているように思われるといいます。表面からそれほど深くない場所に水の氷が存在するのであれば、掘り出して有機物の存在や生命の兆候を調べたり、有人火星探査における資源として利用したりすることができるかもしれません。

研究に参加した欧州宇宙技術研究センター(ESA/ESTEC)のHåkan Svedhemさんは「今回の発見は素晴らしい一歩ですが、私たちが調べている水の形態を確実に知るためにはもっと観測が必要です」とコメントしています。

ESAの火星探査機「マーズ・エクスプレス」の観測データから作成されたマリネリス峡谷中央付近の様子(Credit: ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))

【▲ESAの火星探査機「マーズ・エクスプレス」の観測データから作成されたマリネリス峡谷中央付近の様子(Credit: ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))】

 

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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: ESA
文/松村武宏