
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2026年6月9日付で、小惑星探査機「はやぶさ2」の拡張ミッション「はやぶさ2#」における小惑星「Torifune(トリフネ)」のフライバイ時刻が決定したと発表しました。
発表によると、はやぶさ2は日本時間2026年7月5日18時30分頃に、幅約500mとみられるTorifuneの中心から約1kmの距離を、毎秒約5kmの相対速度で通過する予定です(※運用状況によって時刻は前後する可能性があります)。

拡張ミッション「はやぶさ2#」1つ目の探査対象
JAXAのはやぶさ2は、2019年2月と7月に小惑星「Ryugu(リュウグウ)」で採取したサンプルを2020年12月に地球へ持ち帰った後、次の小惑星を目指して拡張ミッションを続けています。
拡張ミッションの探査対象となる小惑星は2つあります。1つは、2031年7月に到着予定の小惑星「1998 KY26」です。2025年9月発表の研究では幅約11mと見積もられている小さな小惑星で、はやぶさ2はその周囲を飛行しながら観測を行い、場合によっては小惑星表面へ降下・上昇するタッチダウンを実施する可能性もあります。
もう1つは、2026年7月にフライバイ探査を行う予定のTorifuneです。はやぶさ2はTorifuneの近くを高速で通過しながら、その様子を観測することになっています。
はやぶさ2がTorifuneをフライバイする日……すなわちTorifuneに最も接近する日が2026年7月5日になることは、すでに2025年12月に発表されていました。しかし、最接近時刻の決定には探査機の運用状況や観測のタイミング、使用する地上局の検討が必要だったため、フライバイまであと1か月となったこのタイミングでの発表になりました。
高速ですれ違う小惑星に可能な限り接近して観測
地球から遠く離れた無人探査機が、非常に高速で接近する小惑星とすれ違うのですから、「近くを通過しながら観測する」といっても簡単なことではありません。
JAXAによると、Ryuguのサンプルを採取したはやぶさ2は、小惑星に到着してから詳しい観測を行うように設計されました。そのため、はやぶさ2がTorifuneの良い観測データを得るためには、フライバイ時にできるだけTorifuneへ近付く必要があります。
ところが、フライバイ時のはやぶさ2とTorifuneの相対速度は、前述の通り毎秒約5kmもあります。Torifuneの幅は500m程度と推定されていますから、計算上、はやぶさ2は0.1秒もあればTorifuneを横切れてしまうほどの高速で接近し、通過して、飛び去っていくことになるのです。
それに、この幅はあくまでも推定値であり、Torifuneは細長い形をしているかもしれません。あまり近付きすぎると、衝突してしまう可能性もあります。「はやぶさ2」のTorifuneフライバイでは、まだわかっていない性質があることを考慮した上で最接近距離を決定しなければならないという、難しい運用が求められます。

また、Torifuneの良いデータを得る以外にも、可能な限り接近することにはメリットがあります。はやぶさ2のカメラは機体に固定されているので、すれ違う小惑星を継続的に観測するには、小惑星の見かけの動きに合わせて探査機の姿勢を変えなければならないからです。
どういうことかというと、離れてフライバイする場合はTorifuneの見かけの動きが早い段階から大きくなるため、探査機の姿勢もそれに合わせて変更しなければなりません。一方、近付いてフライバイする場合は、最接近が間近になるまでTorifuneの見かけの動きは小さくなるため、探査機の姿勢を少し変更するだけで済むのです。最接近時には非常に高速で動いて見えることになるので、その直前で観測は終了することになります。
非常に大雑把なイメージですが、離れた道路を走っている車と、対向車線を走ってくる車を観察する様子を想像してみてください。道路はどちらも直線・平坦です。離れた道路の車は視野の中で常に移動し続けるので、動きを追うには目や首を常に動かすことになりますし、遠くにあるので車体の詳細もあまりよくわかりません。
一方、対向車線の車は視野の中でほぼ同じ位置に留まりながら近付いてきます。十分近づけば車体の詳細もよくわかるようになりますが、すれ違う瞬間には大きく動いて後方へ走り去ります。このイメージでいう「対向車線の車をすれ違う直前まで観察する」ことを、はやぶさ2はTorifuneの高速フライバイで実施しようというわけです。
プラネタリーディフェンスにもつながると期待
また、小さな小惑星に対する精密な誘導が求められる高速フライバイは、プラネタリーディフェンス(※)にも資する挑戦です。
NASA(アメリカ航空宇宙局)は2022年9月に、小惑星軌道変更ミッション「DART(Double Asteroid Redirection Test)」の無人探査機を小惑星「Didymos(ディディモス)」の衛星「Dimorphos(ディモルフォス)」に衝突させることに成功し、実際にDimorphosの公転周期が短縮されたことが確認されています。

こうした知見をもとに、地球に衝突する可能性が高いと判断された小惑星に対して、その軌道を変更して衝突を回避するミッションが、将来は実際に行われるかもしれません。
はやぶさ2はTorifuneに衝突しないように運用されますが、その至近を高速でフライバイするための精密な軌道誘導は、プラネタリーディフェンスにおける日本の貢献にもつながると期待されています。
※…地球に接近する小惑星などの天体を早期に発見し、軌道を精密に計算して衝突の可能性を評価するとともに、万が一衝突の恐れがある場合にはその影響を回避・軽減する対策を実行する国際的な取り組みのこと。惑星防衛や地球防衛とも。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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