NASAは6月27日、2003年に始まった「ニュー・フロンティア計画」4番目のミッションとして、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所が主導する「ドラゴンフライ」を選出したと発表しました。探査の対象となるのは、太陽系の衛星で唯一濃密な大気を持つ土星の衛星「タイタン」です。
ドラゴンフライとは、日本語で「トンボ」のこと。その名が示す通り、探査機は飛行することが前提となっており、移動するためにホイールではなく8つのローターを備えます。タイタンの大気は地球よりも濃密で、地表の気圧はおよそ1.5気圧、大気の密度は地球のおよそ4倍に達するほど。十分な大気が存在するため、空を飛ぶことが可能なのです。
ただし、濃すぎる大気が太陽光をさえぎるため、太陽電池では電力をまかなえません。そのため、ドラゴンフライには動力源として放射性同位体熱電気転換器(RTG)が搭載されます。RTGは放射性物質が崩壊する時に発する熱から電気を得るための装置で、すでにミッションを終えた土星探査機「カッシーニ」にも搭載されていました。
探査機は2年半強のミッション期間中に砂丘やクレーターの底などへ飛んでいき、地表のさまざまな場所からサンプルを採取し調べることで、タイタンは生命にとってどのような環境なのかを探ります。その移動距離は、これまで投入された火星探査車すべての移動距離を足し合わせた値の2倍にあたる175kmを超えると見積もられています。
タイタンは、初期の地球によく似た環境を備えた天体と考えられています。そこには窒素を主成分とした大気があり、水ではありませんがメタンやエタンをたたえた湖が広がっています。表面の温度は摂氏マイナス179度と非常に寒く、人間にとっては過酷な環境ですが、生命の誕生と進化についての新たな知見が得られる場所として期待されているのです。
ドラゴンフライの打ち上げは2026年、タイタン到着は2034年が予定されています。事が順調に運んでも探査が始まるのは15年先になりますが、異星の空を舞うトンボの視点から見た新たなるタイタンの景色を心待ちにしたいと思います。
Image Credit: Johns Hopkins APL
https://www.jhuapl.edu/PressRelease/190627b
文/松村武宏