
NASA(アメリカ航空宇宙局)は日本時間2026年3月20日から21日にかけて、有人月周回ミッション「Artemis II(アルテミスII)」で使用される大型ロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」のロールアウト(射点への移動作業)を、アメリカ・フロリダ州のケネディ宇宙センターで実施しました。

VABから約12時間の移動を終えて39B射点に到着
輸送車両「Crawler-Transporter 2(クローラー・トランスポーター2)」に移動式発射台ごと載せられたSLSは、アメリカ東部夏時間2026年3月20日0時20分(日本時間同日13時20分)にVAB(ロケット組立棟)から移動を開始しました。
打ち上げが行われる39B射点までは4マイル(約6.4km)の行程ですが、輸送車両は最大でも毎時0.82マイル(約1.3km)と非常にゆっくり移動するため、到着したのはほぼ11時間後のアメリカ東部夏時間2026年3月20日11時21分(日本時間翌21日0時21分)のことでした。
Artemis IIミッションの最も早い打ち上げウィンドウは、アメリカ東部夏時間2026年4月1日18時24分(日本時間翌2日7時24分)からの120分間です。ただし、天候などの条件次第で、打ち上げ予定日は変更される可能性があります。
なお、2026年4月の打ち上げ予備期間はアメリカの現地時間で2日~6日と30日に設定されれています。

再度のリハーサルは行わずに打ち上げへ
Artemis IIミッションのSLSは2026年1月にも39B射点にロールアウトされ、これまでに2回のウェットドレスリハーサル(WDR: Wet Dress Rehearsal、推進剤充填を伴う打ち上げリハーサル)が行われました。
NASAはその時点では2026年3月の打ち上げを目指していましたが、2月下旬にSLSロケットの上段(2段目)でヘリウムの供給に問題が確認されたため、SLSを射点からVAB(ロケット組立棟)へと戻すロールバックを行い、対策と並行してバッテリーの交換などが実施されています。
すでに2回のリハーサルを済ませていることから、NASAは再度のウェットドレスリハーサルは行わない方針です。次にSLSに推進剤が充填されるのは、Artemis IIミッションの打ち上げ本番ということになります。
1972年12月以来となる有人での月周辺の飛行
Artemis IIは、アメリカが主導する有人月探査計画「Artemis(アルテミス)」で最初の有人ミッションです。
SLSおよび新型有人宇宙船「Orion(オリオン、オライオン)」の有人飛行試験という位置付けで、月着陸こそ行わないものの、1972年12月の「Apollo 17(アポロ17号)」以来およそ半世紀ぶりに有人で月周辺の飛行を行います。

まず、SLSで打ち上げられたOrion宇宙船は、地球を周回する楕円軌道に投入されます(上図の1~5)。SLS上段(2段目)から分離したOrion宇宙船は、後のミッションで実施される月着陸船などとのランデブーやドッキングに備えて、上段をターゲットとした近傍運用の実証を実施します(上図の6、および右端の枠内)。
実証試験後のOrion宇宙船は地球を周回しながら各種システムの検証などを行い、2日目に月へ向かうための主エンジン噴射を行います(上図の9)。片道4日間の軌道に乗ったOrion宇宙船は、地球と月を囲む細長い「8」の字を描く自由帰還軌道(free-return trajectory)を飛行。月の裏側を通過(上図の11)した後に、地球の大気圏に再突入して帰還します(上図の13~15)。ミッション期間は約10日間です。
なお、Artemis IIミッションのOrion宇宙船は前述の通り自由帰還軌道を飛行するため、月を周回する衛星軌道には入りません。より正確には月フライバイ(接近通過)にあたりますが、月の裏側をぐるりと回り込む経路であることや、NASAも「flyby」とともに「around the Moon」という表現を用いていることを踏まえて、記事のタイトル等では飛行経路をイメージしていただきやすいように「月周回ミッション」と表記しています。
クルーはアメリカとカナダの宇宙飛行士4名
Orion宇宙船に搭乗するのは、コマンダーを務めるNASAのReid Wiseman宇宙飛行士、パイロットを務めるNASAのVictor Glover宇宙飛行士、ミッションスペシャリストを務めるNASAのChristina Koch宇宙飛行士、およびCSA(カナダ宇宙庁)のJeremy Hansen宇宙飛行士です。

Wiseman宇宙飛行士はISS(国際宇宙ステーション)の第40次/第41次長期滞在クルーの一員として、2014年5月から11月にかけてISSに滞在。2020年12月から2022年11月にかけてはNASAの宇宙飛行士室長を務めました。
Glover宇宙飛行士はNASAの「Crew-1」ミッションの一員として、2020年11月から2021年5月にかけてISSに滞在しました。Crew-1はJAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙飛行士だった野口聡一さんも参加したミッションです。
Koch宇宙飛行士はISSの第59次/第60次/第61次長期滞在クルーの一員として、2019年3月から2020年2月にかけてISSに滞在しました。Hansen宇宙飛行士はArtemis IIが初の宇宙飛行で、2009年にCSAの宇宙飛行士として選抜されました。
無事成功すれば、Artemis計画最初の有人月面着陸を行う「Artemis III」ミッションだけでなく、基地の建設も計画されている持続的な月面探査や、その先に待つ将来の有人火星探査に向けても大きな前進となります。早ければあと10日ほどで打ち上げの時を迎えるArtemis IIミッションに注目です!
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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