
アメリカ企業SpaceX(スペースX)は2025年5月23日、同社が開発中の新型ロケット「Starship(スターシップ)」による無人での第9回飛行試験に向けて準備を進めていると発表しました。直近の打ち上げ目標日時は日本時間2025年5月28日8時30分(アメリカ中部標準時2025年5月27日18時30分)です。
Starshipとは?

Starshipは1段目の大型ロケット「Super Heavy(スーパーヘビー)」と2段目の大型宇宙船「Starship」からなる全長123mの再使用型ロケットで、打ち上げシステムとしてもStarshipの名称で呼ばれています。推進剤に液体メタンと液体酸素を使用する「Raptor(ラプター)」エンジンをStarship宇宙船は6基(大気圏内用3基・真空用3基)、Super Heavyは33基搭載しています。
SpaceXによると、両段を再使用する構成では100~150トンのペイロード(搭載物)を打ち上げ可能。2段目のStarship宇宙船は単体でも準軌道飛行(サブオービタル飛行)が可能で、地球上の2地点間を1時間以内に結べるとされています。
SpaceXはアメリカ・テキサス州の同社施設「Starbase(スターベース)」を拠点にStarshipの開発を進めています。Super Heavyブースターも含めたStarship打ち上げシステム全体の飛行試験は、2023年4月からこれまでに合計8回実施されました。
2025年3月に実施された直近の第8回飛行試験では、Super Heavyブースターの3回目の発射台帰還に成功。一方、2025年1月の第7回飛行試験から採用されている新世代のStarship宇宙船は複数のエンジンで異常が発生して制御を失い、最終的に機体は分解して失われました。SpaceXによると、異常の根本的な原因の可能性が最も高いのは1基のエンジンで発生したハードウェアの故障で、結果として意図的でない推進剤の混合と点火が発生したとみられています。
Starship宇宙船は宇宙空間でのペイロード放出テストなどを予定

SpaceXによると、第9回飛行試験では前回に続いて新世代の改良版Starship宇宙船が飛行し、初のペイロード放出テストなどが試みられます。
Starship宇宙船は機体の前後に合計4のフラップが備わっていますが、改良版は前方2つのサイズが縮小されていて、取り付け位置も第6回飛行試験までの機体と比べて機体先端側・耐熱タイルの反対側(背面側)に少し移動されています。前方のフラップは過去の飛行試験において大気圏再突入時の高熱で損傷していましたが、この変更によって熱の影響を受けにくくなると期待されています。
再突入時の熱から機体を保護する耐熱タイルは、破損や脱落に備えたバックアップ用の保護層を含む新世代のタイルを採用。タイルの一部は機体のストレステストの一環として取り外される他に、代替材料のテストとして複数の金属製タイル(能動的な冷却機能を備えたものを含む)も取り付けられています。加えて、Super Heavyブースターと同様にStarship宇宙船を発射台に帰還させる上で必要となる機体側面の構造物も取り付けられ、耐熱性能がテストされます。
また、第8回飛行試験では第6回に続いてRaptorエンジン1基の宇宙空間での再点火テストが予定されている他に、前述の通り初のペイロードの放出テストが試みられます。搭載されるのはSpaceXの衛星インターネットサービス「Starlink(スターリンク)」用の次世代通信衛星と同じサイズ・同じ重量を模倣した「Starlink simulator」8基です。このペイロードはStarship宇宙船と同じ軌道を辿るため、最終的には大気圏に再突入して消滅する見込みです。
なお、SpaceXの発表では名言されていませんが、第9回飛行試験に関連した2段目(Starship宇宙船)の再突入と着水に関するNOTAM(ノータム、航空情報)がインド洋の海域を対象に通知されていることから、今回もこれまでの飛行試験と同様にStarship宇宙船はインド洋に着水するものとみられます。
Super Heavyブースターは今回も発射台帰還に挑戦

一方、第9回飛行試験では再使用化実現への次の一歩として、第7回飛行試験で帰還に成功したSuper Heavyブースターが再使用されます。機体の再使用は今回が初めてで、発射台への帰還は行われず、メキシコ湾(米国での表記はGulf of America)に着水する予定です。
今回の飛行では、Super Heavyブースターで異常が発生した時の対応を考慮した、いくつかの実験が行われます。そのうちの1つは、帰還時のバックアップエンジンの検証です。Super Heavyブースターの33基のエンジンは3重のリング状に配置されていて、帰還の最終段階では中央の3基だけが使用されます。第9回飛行試験ではこのうちの1基を意図的に停止し、バックアップとして中間リングの1基のエンジンを使用する場合のデータが収集されます。
Starship宇宙船のペイロード放出テストとインド洋への着水、そして再使用された機体による初めてのSuper Heavyブースターの飛行。Starship第9回飛行試験も注目です。
文・編集/sorae編集部
関連記事
- スペースXがスターシップ宇宙船の地上燃焼試験を実施 第9回飛行試験に向けて(2025年5月15日)
- スペースXが「スターシップ」第8回飛行試験を実施 ブースター帰還も宇宙船で再びトラブル発生(2025年3月7日)
- 【更新】スペースXが「スターシップ」第7回飛行試験を実施 ブースター帰還も宇宙船は通信途絶える(2025年1月17日)