宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2024年8月26日、小型月着陸実証機「SLIM」の月面での運用が終了したと発表しました。
2023年9月7日にJAXAのX線分光撮像衛星「XRISM」とともに「H-IIA」ロケット47号機で打ち上げられたSLIMは、2024年1月20日0時20分頃に日本の探査機として初めて月面へ軟着陸することに成功しました。ただし、2基搭載されているメインエンジンの1基で着陸直前に生じたトラブルによって想定外の速度や姿勢で接地することになったため、SLIMは太陽電池を西に向けて逆立ちしたような姿勢で安定しています。
着陸直後に電力を得られなかったSLIMは一旦休眠状態に置かれましたが、太陽光が西から当たって太陽電池から電力を得られるようになった2024年1月28日以降は「マルチバンド分光カメラ(MBC)」による岩の観測が行われました。MBCは月のマントルに由来するかんらん石(橄欖石)を含んだ岩の分光観測(※電磁波の波長ごとの強さであるスペクトルを得るための観測)を目的としてSLIMに搭載された観測装置です。MBCによる分光観測は当初の想定を上回る10個の岩石に対して行われ、実際にかんらん石を示すデータが得られていたことが明らかになっています。
着陸地点が夜を迎えることから、SLIMは2024年1月31日に再び休眠状態に入りました。月面は昼間が約110℃、夜間が約マイナス170℃という温度差の激しい環境であり、電子機器などが故障する確率も上がります。SLIMはもともと月面での越夜(夜を越すこと)を想定して設計されてはいませんでしたが、JAXAは2月25日にSLIMが1回目の越夜に成功したことを確認(3月1日未明から休眠)。続く3月27日には2回目の越夜(3月30日未明から休眠)、4月23日には3回目の越夜(4月29日未明から休眠)に成功したことが、それぞれ確認されています。
しかし、4回目の越夜を終えて電力が回復したと想定される2024年5月24日から27日にかけての運用ではコマンドの送信に対してSLIMからの応答はなく、5月の運用はそのまま終了。その後も5回目の越夜を終えた6月21日から27日にかけてと、6回目の越夜を終えた7月24日と7月25日にも改めて通信が試みられたものの、SLIMからの電波は受信されませんでした。
JAXAによると、2024年5月から7月にかけての運用機会に通信が確立できなかったことから、8月23日22時40分の停波運用をもってSLIMの月面での運用は終了しました。SLIMの詳細な成果に関しては総括を行った上で別途報告する予定だということです。【最終更新:2024年8月26日16時台】
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- JAXA - 小型月着陸実証機(SLIM)の月面活動の終了
文・編集/sorae編集部