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観測を行う宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」を描いた想像図(Credit: NASA GSFC/CIL/Adriana Manrique Gutierrez)
【▲ 観測を行う宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」を描いた想像図(Credit: NASA GSFC/CIL/Adriana Manrique Gutierrez)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間1月5日、新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」のサンシールド(日除け)を展開する運用チームの作業が完了したことを明らかにしました。サンシールドは赤外線の波長で天体を観測するウェッブ宇宙望遠鏡を冷却するための非常に重要な装置であり、同望遠鏡は打ち上げ半年後の観測開始に向けた重要なマイルストーンの1つに到達したことになります。

■打ち上げから10日経過、巨大なサンシールドの展開に無事成功

2021年12月25日21時20分(日本時間、以下特記なき限り同様)に欧州の「アリアン5」ロケットで打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、初期宇宙で誕生した宇宙最初の世代の星(初期星、ファーストスター)や最初の世代の銀河太陽系外惑星の観測などで活躍することが世界中の研究者から期待されています。

ウェッブ宇宙望遠鏡は地球と太陽の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のひとつ「L2」(地球からの距離は約150万km)まで1か月ほどかけて移動し、機器の冷却や較正を終えた後(打ち上げから約6か月後)に観測を開始する予定です。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を搭載して打ち上げられた「アリアン5」ロケット(Credit: NASA/Chris Gunn)
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を搭載して打ち上げられた「アリアン5」ロケット(Credit: NASA/Chris Gunn)】

前述のようにウェッブ宇宙望遠鏡は赤外線の波長で観測を行いますが、赤外線は天体だけでなく熱を持つ物体からも放射されます。宇宙望遠鏡自体も例外ではなく、主鏡や副鏡、観測装置、機体の温度をできるだけ低く保っておかないと、自身が放射した赤外線が観測の妨げになってしまいます。

そこでウェッブ宇宙望遠鏡には、鏡や機体を温める太陽光を遮断するためにサンシールドが搭載されています。サンシールドは表面にアルミニウムを蒸着させたカプトン(ポリマーの一種)の極薄フィルム5枚で構成されていて、太陽側の温度が摂氏110度に達していても、科学機器がある反対側の温度は摂氏マイナス230~240度の低温に保たれるといいます。

【▲ すべての地上試験を終え、打ち上げのために各部が畳まれたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。前後のUPSが主鏡を挟み込むように折り畳まれている(Credit: NASA/Chris Gunn)】

ただし、テニスコート並のサイズ(約21m×14m)があるサンシールドや主鏡(直径6.5m)といったウェッブ宇宙望遠鏡の各部はアリアン5のフェアリング(※)に収まらないサイズだったため、一旦折り畳んだ状態で打ち上げた後に宇宙空間で展開する構造が採用されています。

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※…ロケットの先端にある人工衛星や探査機などを搭載する部分、アリアン5のフェアリングは直径5m

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【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げから主鏡の展開完了までを示した動画(Credit: ESA/ATG medialab)】

サンシールドの展開作業は打ち上げから3日後に始まりました。まずは2021年12月29日3時21分に機体前方のUPS(Unitized Pallet Structure)が、同日9時27分には後方のUPSが、それぞれ所定の位置への展開を完了しました。UPSには折り畳まれた5枚のフィルムをはじめ、ケーブル、プーリー(滑車)、リリース機構といったサンシールドを構成する部品が組み込まれています。展開後の12月31日未明にはフィルムを覆っていたUPSのカバーが巻き取られました。

続いて2022年1月1日には、サンシールドを側方に引き出す役目を果たす機体両側のアーム(mid-boom)を展開する作業が行われました。左側のアームは3時30分から6時49分にかけて、右側のアームは8時31分から12時13分にかけてそれぞれ伸ばされています。最終段階のフィルムにテンションをかける伸張作業は1月4日5時48分に完了した1枚目から順に着手され、最後となる5枚目のフィルムは打ち上げから10日が経った1月5日1時59分に完了しました。

【▲ 地上で動作テストが行われた際にDTAをチェックするエンジニアたち(Credit: Northrop Grumman)】

サンシールド本体の展開作業と平行して、望遠鏡や観測装置を搭載した機体上部と宇宙機としてのウェッブ宇宙望遠鏡の本体(バス)とを繋ぐDTA(Deployable Tower Assembly)と呼ばれるタワー構造を伸ばす作業も行われました。DTAは熱に敏感な鏡や観測装置をバスから遠ざけるとともに、サンシールドを構成する5枚のフィルムを展開するスペースを確保するために1.2m伸びる構造になっています。DTAの展開は2021年12月29日23時45分から翌30日6時24分にかけて、6時間半以上を費やして行われました。

関連:期待の次世代宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」地上での試験進む

また、2021年12月30日23時頃にはサンシールドの後端に位置するモーメンタムフラップが展開されました。NASAによると、ウェッブ宇宙望遠鏡の広大なサンシールドは太陽光の圧力を受けて機体を回転させてしまうため、そのままではリアクションホイール(回転することで宇宙機の姿勢を安定させたり、回転速度を調整して姿勢を変更したりするための装置)を使って回転を打ち消さなければなりません。モーメンタムフラップは光圧を受けるサンシールドのバランスを調整するためのもので、機体を安定させるとともに、推進剤の消費量を抑える上で役立つとされています。

NASAによると、ウェッブ宇宙望遠鏡のサンシールドの展開と伸張には139か所のリリース機構(機体全体で合計178か所のうち)、70個のヒンジアセンブリ、8個のモーター、約400個のプーリー、90本のケーブル(長さは合計約400m)が関わったとのこと。作業のスケジュールはフィルムを覆っていたカバーが正常に巻き取られたかどうかをアームの展開前に再確認したり、電源システムおよびフィルム伸張用のモーターを最適化するのに1日を費やしたりしたために随時変更されましたが、菱形または凧形をした特徴的なサンシールドは計画通り展開を終えたことになります。

【▲ 2019年10月に地上で行われたサンシールド展開テストの様子(Credit: Northrop Grumman)】

サンシールドの展開完了という大きなマイルストーンを迎えたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡ですが、展開作業はまだまだ続きます。この後は長い梁に支えられた副鏡や、畳まれていた主鏡の左右の部分、観測装置用のラジエーターの展開作業が予定されています。

また、打ち上げから約1か月後には、観測を行うL2周辺の運用軌道へウェッブ宇宙望遠鏡を投入するための最後の軌道修正噴射も行わねばなりません。soraeではウェッブ宇宙望遠鏡のL2への行程を随時お伝えする予定です。

 

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Image Credit: NASA GSFC/CIL/Adriana Manrique Gutierrez
Source: NASA
文/松村武宏

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