
こちらは「ろ座(炉座)」のごく狭い範囲を捉えた画像。幅は満月の視直径の170分の1以下しかありません(視野は0.17×0.17分角)。中央に見える赤い点は「JADES-GS-z13-1」と呼ばれる銀河で、ビッグバンから約3億3000万年後、今から135億年ほど前の初期宇宙に存在していたと考えられています。

この画像は「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータを使って作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は主に赤外線の波長で観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。
予想されていなかった“ライマンα輝線検出”の衝撃
JADES-GS-z13-1はウェッブ宇宙望遠鏡を用いた初期の銀河の観測プログラム「JADES(JWST Advanced Deep Extragalactic Survey)」を通じて発見された銀河のひとつです。
ウェッブ宇宙望遠鏡を運用するアメリカのSTScI=宇宙望遠鏡科学研究所によると、遠方の天体までの距離を示す「赤方偏移」(※1)の値はNIRCamのデータからはz=12.9と推定されていましたが、ケンブリッジ大学のJoris Witstokさんを筆頭とする研究チームがウェッブ宇宙望遠鏡の「近赤外線分光器(NIRSpec)」を使ってJADES-GS-z13-1のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さの分布)を詳しく調べたところ、z=13.0(ビッグバンから3億3000万年後)という値が確認されました。
※1…天体のスペクトルに生じた宇宙の膨張にともなう波長のずれ=宇宙論的赤方偏移を利用した距離の指標。「z」で表される。銀河のように遠方の天体までの距離を示す時によく用いられます。

ところが、研究チームはNIRSpecのデータから思いがけない発見をすることになりました。水素原子から放射される輝線(スペクトルで針状に突出する特定の波長の電磁波)のひとつである「ライマンα輝線」(※2)が非常に明るく検出されていたのです。研究に参加したアリゾナ大学のKevin Hainlineさんが「私たちの宇宙進化の理解にもとづけば、このような銀河は見つかるはずがありません」と語るほどの予想外な発見でした。
※2…ライマンα輝線は紫外線(波長121.6nm)ですが、宇宙論的赤方偏移によって波長が伸びることで、JADES-GS-z13-1のような遠方の天体から放射されたものが地球へ届く頃には可視光線を通り越して赤外線になっています。
ビッグバンから間もない頃の宇宙はまだ温度が高く、主な元素だった水素やヘリウムは電離して原子核と電子に分かれていました。ビッグバンから約38万年後には宇宙の温度が下がり、原子核と電子は結合して水素原子(中性水素原子)とヘリウム原子が形成されます。「宇宙の晴れ上がり」や「再結合期」と呼ばれる時代です。
やがて集まった水素ガスから最初の世代の星(初代星)が誕生するようになると、星から放射された紫外線によって中性水素が再び電離するようになりました。この出来事は「宇宙の再電離」と呼ばれていて、ビッグバンから数えて2億~4億年後(初代星が誕生した頃)から10億年後頃までには完了した……。以上が、従来の理解をもとにした簡単な説明です。

JADES-GS-z13-1が存在していた頃はまだ再電離が完了しておらず、銀河は中性水素ガスに取り囲まれていたと考えられます。大量の中性水素はまるで色付きガラスのように紫外線をさえぎるので、十分な数の恒星が誕生して中性水素を電離するまで、ライマンα輝線のような電磁波は銀河の外に出ていけなかったはずなのです。
研究に参加したユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのRoberto Maiolinoさんは「それにもかかわらず、周囲の中性水素の霧が完全に晴れていなければ見えないはずのライマンα輝線の明瞭な兆候を示しているのです。この結果は、初期銀河の形成に関する理論ではまったく予想されておらず、天文学者たちを驚かせました」とコメントしています。
今回検出されたライマンα輝線の起源はまだ特定されていないものの、初代星からの光が含まれている可能性もあるといいます。Witstokさんは、後に形成される恒星よりもはるかに大質量で、高温で、明るい恒星たちによってJADES-GS-z13-1の周囲に電離水素の泡が形成されていた可能性に言及しています。また別の可能性として、宇宙最初期の超大質量ブラックホールが原動力となった活動銀河核(強い電磁波を放射する銀河中心部の狭い領域)の存在も挙げられています。

研究チームはJADES-GS-z13-1のさらなる観測を計画しており、銀河の性質やライマンα輝線の起源についてより多くの情報が得られることに期待しているということです。初代星が関わっているかもしれないJADES-GS-z13-1、ウェッブ宇宙望遠鏡による今後の観測や研究の成果にも注目です!
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- STScI - NASA's Webb Sees Galaxy Mysteriously Clearing Fog of Early Universe
- ESA/Webb - Webb sees galaxy is mysteriously clearing fog of early Universe
- Witstok et al. - Witnessing the onset of reionization through Lyman-α emission at redshift 13 (Nature)