2つの銀河が魅せる“みずへび座”のアインシュタインリング

こちらは「みずへび座(水蛇座)」の方向で観測された銀河。ぼんやりと明るい中心部分に帯状の光が幾重にも巻きつけられたような不思議な姿をしています。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とハッブル宇宙望遠鏡(HST)が観測した銀河団「SMACS J0028.2-7537」のアインシュタインリング(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, G. Mahler; Acknowledgement: M. A. McDonald)
【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とハッブル宇宙望遠鏡(HST)が観測した銀河団「SMACS J0028.2-7537」のアインシュタインリング(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, G. Mahler; Acknowledgement: M. A. McDonald)】

楕円銀河を取り囲む渦巻銀河の“アインシュタインリング”

実はこの銀河、1つではなく2つの銀河が偶然重なり合って見えています。ESA=ヨーロッパ宇宙機関(欧州宇宙機関)によると、手前にあるのは銀河団「SMACS J0028.2-7537」に属する楕円銀河で、中心部分の淡い輝きとして見えています。背景にあるのは渦巻銀河なのですが、手前の楕円銀河の質量がもたらす重力レンズ効果によって、像がリング状に大きくゆがんでいるのです。

重力レンズ効果とは、手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間がゆがむことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球からは像がゆがんだり拡大して見えたり、時には分裂して見えたりする現象のこと。重力レンズ効果によってリング状になった天体の像は、一般相対性理論にもとづいてこの効果を予言したアルベルト・アインシュタインにちなんで「アインシュタインリング(Einstein ring)」と呼ばれることもあります。

遠方銀河(Distant galaxy)の像が手前の銀河(Foreground galaxy)による重力レンズ効果によってゆがんで見える仕組みの解説図(英語)(Credit: ESA)
【▲ 遠方銀河(Distant galaxy)の像が手前の銀河(Foreground galaxy)による重力レンズ効果によってゆがんで見える仕組みの解説図(英語)(Credit: ESA)】

像は大きくゆがんでいるものの、観測データからは渦巻銀河の個々の星団やガスの構造を識別することができるといいます。本来なら暗すぎて観測できない遠方の銀河であっても、このように像が拡大されることで貴重な情報を得られる可能性をもたらすのが、重力レンズ効果の特徴のひとつなのです。

冒頭の画像は「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータに「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」のデータも加えて作成されたもので、“ウェッブ宇宙望遠鏡の今月の画像”としてESAから2025年3月27日付で公開されています。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典

  • ESA/Webb - Spying a spiral through a cosmic lens