
こちらの画像、左右に写っているのはどちらも海王星です。左は「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」の「広視野カメラ3(WFC3)」で取得した観測データを使って作成されたもの。右は左と同じWFC3の画像に、「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「近赤外線分光器(NIRSpec)」で取得した観測データが重ねて表示されています。

ハッブル宇宙望遠鏡とウェッブ宇宙望遠鏡を運用するアメリカのSTScI=宇宙望遠鏡科学研究所によると、右の画像でシアン色に着色された部分は赤外線オーロラの存在を示しています。海王星のオーロラが観測されたのはこれが初めてです。海王星の磁場は自転軸に対して47度傾いているため、オーロラは極域ではなく中緯度に現れています。
ついに観測された海王星のオーロラ 検出されなかった理由は上層大気の温度?
太陽系の巨大惑星ではこれまでに木星・土星・天王星でオーロラが観測されてきました。海王星ではNASA=アメリカ航空宇宙局の惑星探査機「ボイジャー2号(Voyager 2)」がオーロラの兆候を捉えたものの、その画像を取得して確認するには至っていませんでした。
2023年6月にNIRSpecで取得されたスペクトル(電磁波の波長ごとの強さの分布)をレスター大学(※研究当時、現在はノーザンブリア大学)のHenrik Melinさんを筆頭とする研究チームが分析したところ、プロトン化水素分子(水素の原子核3個と電子2個からなる陽イオン)の存在を示す輝線(特定の波長の電磁波)が見つかりました。プロトン化水素分子はオーロラ電子が大気中の水素分子に衝突することで生成されると予想されており、赤外線を放射します。冒頭の画像でシアン色に着色されている部分がプロトン化水素分子の分布に相当します。
研究に参加したAURA=全米天文学大学連合のHeidi Hammelさんは、プロトン化水素分子は木星・土星・天王星におけるオーロラの明確な指標であり、海王星でも見られるだろうと予想していたとコメントしています。「ウェッブ宇宙望遠鏡のような機械があって初めて私たちは確認することができました」(Hammelさん)
STScIによると、海王星のオーロラを今まで観測できなかった理由は上層大気の温度にあるようです。1989年に海王星をフライバイ探査したボイジャー2号の観測では約750ケルビン(477℃)だったのに対し、34年後に取得されたウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを分析した結果は約358ケルビン(85℃)と、大きな差がみられます。
これまで研究者はボイジャー2号の観測データをもとに海王星のオーロラの強さを予測してきましたが、上層大気の温度が下がればオーロラの輝きも弱くなるため、長いあいだ検出できなかったことが考えられるといいます。また、今回確認された劇的な温度低下は、太陽からの距離が地球の30倍も離れているにもかかわらず、海王星の上層大気が大きく変化する可能性を示すものとなりました。
今回の発見を踏まえて、研究者らは太陽活動の11年周期全体にわたってウェッブ宇宙望遠鏡で海王星を観測することを目指しています。この取り組みにより、海王星の磁場の起源に関する知見を得るとともに、磁場がこれほど傾いている理由を説明できるかもしれません。また、天王星のような極端な季節変化を経験しないことから、海王星の観測は似たサイズの太陽系外惑星における大気と磁気圏の相互作用を調べる新たな手法を提供すると研究チームは期待を寄せています。
ボイジャー2号の観測と今の様子が違う……というと、2024年11月にお伝えした天王星の事例を思い出します(詳しくは関連記事をご覧下さい)。太陽系の惑星にもまだまだ謎が隠されていることを改めて実感するとともに、天王星や海王星に探査機を送り込む新たなミッションが待ち遠しいです!
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- STScI - NASA's Webb Captures Neptune's Auroras For First Time
- NASA - NASA’s Webb Captures Neptune’s Auroras For First Time
- ESA/Webb - Webb captures Neptune's auroras for the first time
- Melin et al. - Discovery of H3+ and infrared aurorae at Neptune with JWST (Nature Astronomy)