19世紀から知られる銀河に隠れていたアインシュタインリング ESA宇宙望遠鏡が発見

こちらは「りゅう座(竜座)」の方向約5億9000万光年先の銀河「NGC 6505」です。注目は、ぼんやりと輝くNGC 6505の中心部分。よく見ると、芯のように明るい部分を取り囲むリング状の輝きが写っていることがわかります。

欧州宇宙機関(ESA)のEuclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡が撮影した銀河「NGC 6505」。中心部分を取り囲むリングはアインシュタインリングと呼ばれるもので、重力レンズ効果を受けてゆがんだ遠方銀河の像(Credit: ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre, G. Anselmi, T. Li)
【▲ 欧州宇宙機関(ESA)のEuclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡が撮影した銀河「NGC 6505」。中心部分を取り囲むリングはアインシュタインリングと呼ばれるもので、重力レンズ効果を受けてゆがんだ遠方銀河の像(Credit: ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre, G. Anselmi, T. Li)】

思いがけない“アインシュタインリング”の発見

この画像は欧州宇宙機関(ESA)の「Euclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡」で取得したデータを使って作成されました。ESAによると、このリングはNGC 6505のちょうど向こう側、約44億2000万光年先にある別の銀河の輝き。NGC 6505の質量がもたらした重力レンズ効果を受けたことで、地球からはリング状の像として観測されているのだといいます。

重力レンズ効果とは、手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間がゆがむことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球からは像がゆがんだり拡大して見えたり、時には分裂して見えたりする現象のこと。重力レンズ効果によってリング状になった天体の像は、一般相対性理論にもとづいてこの効果を予言したアルベルト・アインシュタインにちなんで「アインシュタインリング」と呼ばれることもあります。

遠方銀河(Distant galaxy)の像が手前の銀河(Foreground galaxy)による重力レンズ効果によってゆがんで見える仕組みの解説図(英語)(Credit: ESA)
【▲ 遠方銀河(Distant galaxy)の像が手前の銀河(Foreground galaxy)による重力レンズ効果によってゆがんで見える仕組みの解説図(英語)(Credit: ESA)】

今回の場合、遠方の銀河と地球の間に偶然にもNGC 6505が位置するために、地球からは遠方の銀河の像がリング状にゆがんで見えているというわけです。NGC 6505そのものは1884年に発見された銀河ですが、その中心に潜んでいたアインシュタインリングが検出されたのはEuclidによる今回の観測が初めてだといいます。

発見のきっかけは、2023年7月に打ち上げられたEuclidから同年9月に送信されたテスト段階の画像でした。ESAによると、意図的にピントをずらして取得された画像のひとつに何か特別な現象の兆候を見つけた欧州宇宙天文学センター(ESAC)のBruno Altieriさんによって、より詳しく調べるための観測が行われました。

「最初の観測データでも何かがあることに気づきましたが、Euclidがその領域を追加観測した後には完璧なアインシュタインリングが見えたのです。重力レンズに長年関心を寄せてきた私にとって、これは本当に驚くべき発見でした」(Altieriさん)

Euclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡が撮影した銀河「NGC 6505」の中心部分を取り囲むアインシュタインリングにクローズアップした画像(Credit: ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre, G. Anselmi, T. Li)
【▲ Euclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡が撮影した銀河「NGC 6505」の中心部分を取り囲むアインシュタインリングにクローズアップした画像(Credit: ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre, G. Anselmi, T. Li)】

Euclid宇宙望遠鏡は暗黒エネルギー(ダークエネルギー)や暗黒物質(ダークマター)の謎に迫ることを目的に開発された宇宙望遠鏡で、波長550~900nmをカバーする「可視光観測装置(VIS)」と、波長900~2000nmをカバーする「近赤外線分光光度計(NISP)」が搭載されています。

ミッションの目的は、全天の3分の1の範囲・100億光年先までに存在する数十億もの銀河の形状・位置・速度を観測して、宇宙の正確な3Dマップを作成すること。研究者はEuclidの観測データをもとに、暗黒エネルギーおよび暗黒物質の性質と“宇宙の大規模構造”の形成における役割、宇宙の膨張は時間の経過とともにどのように変化してきたのか、といった謎の解明に挑むことになります。

観測を行うEuclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡の想像図(Credit: ESA, Acknowledgement: Work performed by ATG under contract for ESA)
【▲ 観測を行うEuclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡の想像図(Credit: ESA, Acknowledgement: Work performed by ATG under contract for ESA)】

そんなEuclidにとって、重力レンズ効果を受けた銀河は観測対象のひとつでもあります。アインシュタインリングを生み出すような“強い”重力レンズ効果を捉えるのも素晴らしい成果ですが、ミッションで主に注目されるのは、背景の銀河の像をわずかに引き伸ばしたりずらしたりする“弱い”重力レンズ効果の数々。数十億という大量の銀河を観測するのも、弱い重力レンズ効果を捉えるためなのだといいます。

Euclidが観測したNGC 6505とアインシュタインリングの画像は、ESAやアメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)などが2025年2月10日付で紹介しています。6年の予定で始まったミッションの早い段階でもたらされた今回の発見は、Euclidが今後さらに多くの宇宙の秘密を明らかにすることを示唆しているとして期待されています。暗黒エネルギーや暗黒物質の謎に迫るEuclidのミッション、今後の成果も楽しみです!

 

Source

  • ESA - Euclid discovers a stunning Einstein ring
  • NASA/JPL - Euclid Discovers Einstein Ring in Our Cosmic Backyard
  • O'Riordan et al. - Euclid: A complete Einstein ring in NGC 6505 (Astronomy & Astrophysics)

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部