6光年先のバーナード星で新たに3つの太陽系外惑星発見が報告された 合計4つに

こちらは「へびつかい座(蛇遣座)」の方向約6光年先の恒星「Barnard’s star(バーナード星)」を公転する太陽系外惑星の想像図です。手前に大きく描かれた惑星の地平線上で輝くバーナード星の両隣には、さらに3つの惑星が描かれているのがわかりますか?

バーナード星を公転する太陽系外惑星の想像図(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/P. Marenfeld)
【▲ バーナード星を公転する太陽系外惑星の想像図(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/P. Marenfeld)】

報告済みの1つと新発見の3つ バーナード星で合計4つの太陽系外惑星検出を報告

この画像は、シカゴ大学の博士課程学生Ritvik Basantさんを筆頭とする研究チームが発表したばかりの研究成果にもとづいて作成されました。

バーナード星に関しては2024年10月にIAC=カナリア天体物理学研究所のJonay González Hernándezさんを筆頭とする研究チームが、ESO=ヨーロッパ南天天文台の「VLT(Very Large Telescope=超大型望遠鏡)」に設置された分光観測装置「ESPRESSO」を使用した観測の結果として1つの太陽系外惑星「Barnard b(バーナード星b)」の発見を報告しています。この時、González Hernándezさんたちはさらに3つの惑星が存在する可能性にも言及していました。

Basantさんたちはハワイにあるジェミニ天文台の「ジェミニ北望遠鏡」に設置されている分光観測装置「MAROON-X」を使用し、独立してバーナード星の観測を実施。González Hernándezさんたちのバーナード星b発見を裏付けるとともに、新たに3つの惑星「バーナード星c」「バーナード星d」「バーナード星e」の発見を報告しました。

合計4つが報告されたことになるバーナード星系の惑星は、どれも最小質量が地球の2割~3割強ほどと軽いことから岩石惑星だと考えられています。ただし、地球から見たバーナード星では惑星が主星の手前を横切るトランジット(後述)が起こらず、惑星の直径を調べることができないため、確実に特定するのは困難です。

また、赤色矮星であるバーナード星の表面温度は太陽の半分程度(約2900℃)と低いものの、4つの惑星の公転軌道はいずれもバーナード星のハビタブルゾーンの内側に位置しているため、推定される表面の平衡温度は地球よりも高めです。Basantさんたちの論文で示されているバーナード星bも含めた各惑星の情報は以下の通りです(公転周期の長さ順)。

●バーナード星d
・公転周期:約2.3402日
・最小質量:地球の約0.263倍
・公転軌道半径:約0.0188天文単位
・平衡温度:483ケルビン(約210℃)

●バーナード星b
・公転周期:約3.1542日
・最小質量:地球の約0.299倍
・公転軌道半径:約0.0229天文単位
・平衡温度:438ケルビン(約165℃)

●バーナード星c
・公転周期:約4.1244日
・最小質量:地球の約0.335倍
・公転軌道半径:約0.0274天文単位
・平衡温度:400ケルビン(約127℃)

●バーナード星e
・公転周期:約6.7392日
・最小質量:地球の約0.193倍
・公転軌道半径:約0.0381天文単位
・平衡温度:340ケルビン(約67℃)

小さな惑星がより多く見つかる新時代の幕開けとなるか

1916年に天文学者のEdward Emerson Barnard(エドワード・エマーソン・バーナード)が発見してから100年近く。バーナード星では過去にも惑星の発見が報告されたことがあったものの、後の観測で存在が否定されました。一方、今回の一連の研究成果は異なる観測装置を使用した2つの独立した研究チームによるものであり、バーナード星を公転する惑星の存在について従来よりも高い確信度を与えるものとされています。

また、今回報告されたバーナード星eの質量は視線速度法(後述)で発見された惑星としては最も小さい値だといいます。Basantさんたちは、地球よりも小さな太陽系外惑星がより多く発見される新時代のきっかけになることを期待しているということです。

バーナード星をはじめとする赤色矮星は、天の川銀河ではありふれた小さな恒星です。その周りでさらに多くの惑星が見つかるようになれば、惑星の形成や多様性についての理解がさらに深まるはず。赤色矮星を公転する惑星を発見するためにシカゴ大学が開発したというMAROON-Xは研究者から注目されていて、ジェミニ北望遠鏡に常設させる計画も進められているということなので、今後も驚くべき発見をもたらしてくれるかもしれません!

【▲ バーナード星を公転する4つの太陽系外惑星の公転軌道を示した動画】
(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/R. Proctor/J. Pollard)

太陽系外惑星の観測方法について

太陽系外惑星の観測では「視線速度法(ドップラーシフト法)」および「トランジット法」という2つの手法が主に用いられています。

「視線速度法」とは、太陽系外惑星の公転にともなって円を描くようにわずかに揺さぶられる主星の動きをもとに、惑星を間接的に検出する手法です。Basantさんたちが使用したジェミニ北望遠鏡のMAROON-Xや、González Hernándezさんたちが使用したVLTのESPRESSOは、この視線速度法を利用して太陽系外惑星を検出するために開発されました。

惑星の公転にともなって主星が揺れ動くと、光の色は主星が地球に近付くように動く時は青っぽく、遠ざかるように動く時は赤っぽくといったように、周期的に変化します。こうした主星の色の変化は天体のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を得る分光観測を行うことで検出されています。視線速度法の観測データからは系外惑星の公転周期や最小質量を求めることができます。

【▲ 参考動画:系外惑星の公転にともなって主星のスペクトルが変化する様子を示した動画】
(Credit: ESO/L. Calçada)

もう一つの「トランジット法」とは、系外惑星が主星(恒星)の手前を横切る「トランジット(transit)」を起こした際に生じる主星の明るさのわずかな変化をもとに、太陽系外惑星を間接的に検出する手法です。

繰り返し起きるトランジットを観測することで、その周期から惑星の公転周期を知ることができます。トランジット時の主星の光度曲線(時間の経過にあわせて変化する天体の光度を示した曲線)をもとに、惑星の直径や大気の有無といった情報を得ることも可能です。

【▲ 参考動画:系外惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子を示した動画】
(Credit: ESO/L. Calçada)

また、太陽系外惑星がトランジットを起こしている時の主星の光には、惑星の大気(存在する場合)を通過してきた光もわずかに含まれています。惑星の大気を通過してから届いた主星のスペクトルは「透過スペクトル」と呼ばれていて、惑星の大気に含まれる物質が特定の波長の電磁波を吸収したことで生じる暗い線「吸収線」が現れます。透過スペクトルを通常のスペクトルと比較すればどのような吸収線が現れているのかがわかるので、惑星の大気組成を調べることができます。

恒星の光を利用して太陽系外惑星の大気組成を調べる手法のイメージ図
【▲ 参考画像:恒星(左)の光を利用して太陽系外惑星(中央下)の大気組成を調べる手法のイメージ図。系外惑星の大気を構成する物質が一部の波長を吸収するため、大気を通過して地球(右)に届いた主星の光のスペクトル(透過スペクトル)を分析することで、惑星の大気組成を調べることができる。また、大気にヘイズ(もや)がある場合は青い光が散乱して、通過した光は少し赤くなる(Credit: ESO/M. Kornmesser)】

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典

  • NOIRLab - Planetary System Found Around Nearest Single Star
  • University of Chicago - Study by UChicago scientists finds four tiny planets around one of our nearest stars
  • Basant et al. - Four Sub-Earth Planets Orbiting Barnard's Star from MAROON-X and ESPRESSO (The Astrophysical Journal Letters)