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太陽以外の恒星の周りを公転する「太陽系外惑星」の中には、地球のように適度な温度と豊富な液体の水を持つかもしれない惑星がいくつか見つかっています。その1つである「K2-18b」について2023年9月に発表されたある研究では、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」による大気組成の観測の結果、豊富なメタンと二酸化炭素に加えて、生命活動と関連があるバイオマーカーとして注目されている「ジメチルスルフィド」が見つかったと主張されていました。

しかし、カリフォルニア大学リバーサイド校のShang-Min Tsai氏などの研究チームは、この主張に否定的な研究結果を発表しました。K2-18bのような大気をコンピューターでモデル化し、熱や光によって生じる化学反応を再現したところ、この観測データをもとにジメチルスルフィドを検出できたという先の研究結果は怪しいことが示されたというのです。ただし今後、ウェッブ宇宙望遠鏡によるK2-18bの追加観測が予定されているため、今後の観測でジメチルスルフィドが検出される可能性は残されています。

【▲ 図1: 赤色矮星K2-18 (左側の赤色の天体) の周りを公転するK2-18b (右側の青色の天体) の想像図。K2-18の周りには、他に別の惑星であるK2-18c (中央の褐色の天体) も公転しています。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))】
【▲ 図1: 赤色矮星K2-18 (左側の赤色の天体) の周りを公転するK2-18b (右側の青色の天体) の想像図。K2-18の周りには、他に別の惑星であるK2-18c (中央の褐色の天体) も公転しています。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))】

■興味深いバイオマーカーが見つかった惑星「K2-18b」

観測技術の進歩によって、天文学者は地球と似た環境を持つと推定される「太陽系外惑星」をいくつも見つけています。地球と似た環境があれば、そこに独自の生命体がいるかもしれないと考えるのは自然なことです。しかし、仮に独自の生命体がいるとして、その証拠はどのように見つければいいのでしょうか?

生命活動に関連して放出される化学分子を見つけることは、生命探索の大きな手がかりの1つとなります。バイオマーカーと呼ばれるこれらの分子は、生命活動によって大量に生成されることを特徴としています。分子の種類によっては、生命活動にともなって生成される量の方がその他の要因によって生成される量を上回ることもあります。

【▲ 図2: ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測されたK2-18bの大気組成。真ん中の赤い帯中にジメチルスルフィドの存在を示唆するスペクトルがあります。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))】
【▲ 図2: ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測されたK2-18bの大気組成。真ん中の赤い帯中にジメチルスルフィドの存在を示唆するスペクトルがあります。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))】

地球から約120光年離れた位置にある惑星「K2-18b」は、「ジメチルスルフィド」と呼ばれる硫黄化合物の発見が報告されたことで注目されています。ジメチルスルフィドは、生命と関係のない自然界の化学反応でも生成されますが、地球では特に植物プランクトンの活動によって大量に生成されることが知られている、代表的なバイオマーカーです。

2023年9月、ウェッブ宇宙望遠鏡による観測結果を元にK2-18bの大気組成を調べた研究成果が発表されると、大きな注目を集めました。バイオマーカーの1つであるジメチルスルフィドの発見に加えて、二酸化炭素とメタンは豊富に見つかった一方でアンモニアが見つからなかったと主張されたことがその理由です。この組み合わせは、1%の水素を含む温暖な気候の大気と、その下に液体の水で構成された海が存在する環境で得られると考えられています。

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関連項目
「K2-18b」は液体の水が豊富な惑星かもしれない 興味深い分子の存在も示唆(2023年9月26日)

ただし、最も興味深い分子であるジメチルスルフィドについては、その存在を示す信号が弱いため、この結果を発表した研究者自身も予備的な結果であると認めていました。

■ジメチルスルフィドの存在は(今のところは)幻

Tsai氏などの研究チームは、K2-18bのような大気組成を持つ天体で、ウェッブ宇宙望遠鏡が観測可能なほどの高濃度なジメチルスルフィドが生じ得るのかをシミュレーションしました。

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ジメチルスルフィドは生命活動もしくは自然のプロセスによって発生し、恒星からの紫外線によって分解されます。ジメチルスルフィドの濃度がウェッブ宇宙望遠鏡で観測できるほどのレベルになるのかどうかを最終的に決定するのは、生じる量から分解する量を差し引いた値です。

今回の研究では、生物が全く存在しない場合から、地球よりも豊富な生物がいる場合までの様々な条件を設定し、ジメチルスルフィド以外の化合物も含めた様々な分子の生成量を推定しました。他の分子の生成が想定されたのは、いくつかの硫黄化合物が雲の生成に関与していると考えられているためです。雲は日光を遮断し、紫外線によってジメチルスルフィドが分解されるのを防ぎます。

【▲ 図3: 今回の研究結果により、K2-18bは地球よりはるかに生命が豊富か、もしくはバイオマーカーの検出が幻である可能性かの両極端な可能性が見えてきました。現時点では後者の可能性が妥当と考えられます。(Credit: Shang-Min Tsai (AI生成))】
【▲ 図3: 今回の研究結果により、K2-18bは地球よりはるかに生命が豊富か、もしくはバイオマーカーの検出が幻である可能性かの両極端な可能性が見えてきました。現時点では後者の可能性が妥当と考えられます。(Credit: Shang-Min Tsai (AI生成))】

シミュレーションの結果、ジメチルスルフィドの濃度がウェッブ宇宙望遠鏡の性能でK2-18bの大気中から検出できるほど高くなるには、地球の20倍以上の生物の存在が必要であることが分かりました。ただし、これほど生命豊かな環境を想定しても、ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データからジメチルスルフィドの存在を証明するのは困難であることに変わりはないことも分かりました。この結果からすると、K2-18bが生命あふれる惑星であると考えるよりも、ジメチルスルフィドを検出したという結果が幻であると考える方が妥当でしょう。

ただし、2024年後半にはウェッブ宇宙望遠鏡によるK2-18bの追加観測が予定されており、今回の研究が示すこの少し残念な結果は早めに覆るかもしれません。現在の観測結果だけではジメチルスルフィドの存在をはっきり確定させることはできませんが、この追加観測によって白黒をよりはっきりさせられるデータが得られるかもしれません。

 

Source

  • Shang-Min Tsai, et al. “Biogenic Sulfur Gases as Biosignatures on Temperate Sub-Neptune Waterworlds”. (The Astrophysical Journal Letters)
  • Jules Bernstein. “Webb telescope probably didn’t find life on an exoplanet — yet”. (University of California, Riverside)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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