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金星」の大気中には「原子状酸素」という、単独の原子の状態となった酸素が存在すると考えられています。これまでの観測では、太陽光の当たる昼側で原子状酸素は見つかっていませんでした。

DLR(ドイツ航空宇宙センター)のHeinz-Wilhelm Hübers氏などの研究チームは、「SOFIA(成層圏赤外線天文台)」によって金星を観測し、昼側では初めて原子状酸素を観測することに成功しました。その観測結果は、原子状酸素の発生に関する事前の予測と一致します。

【▲図1: 金星探査機「あかつき」によって赤外線および紫外線で撮影された金星の合成画像。 (Image Credit: Kevin M. Gill) 】
【▲図1: 金星探査機「あかつき」によって赤外線および紫外線で撮影された金星の合成画像(Credit: Kevin M. Gill)】

■金星の原子状酸素の謎

金星」は、約97%が二酸化炭素で構成された非常に分厚い大気を持っています。二酸化炭素は化学的に非常に安定した分子であるため、一見すると金星大気内で発生する化学反応は乏しく思えます。

ただし、金星大気の上層では状況が異なります。強力な紫外線を含む強い太陽光に晒された二酸化炭素は分解され、酸素原子が単独の状態で存在する「原子状酸素」の状態になります。原子状酸素は極めて不安定であり、他の分子と出会うと分解や化合などの化学反応を起こすため、金星大気中での化学反応の主因になっていると考えられています。

この場合、原子状酸素は太陽光の当たる昼側で多く生成され、その後の大気循環で夜側に輸送されると考えられます。しかし、これまでの観測では原子状酸素は夜側でのみ見つかっており、昼側では見つかっていませんでした。原子状酸素を見つけるには、原子状酸素から放射される固有の波長の光を捉える必要があります。しかし、金星の雲は太陽光を強く反射し、原子状酸素から放たれる微弱な光を隠してしまいます。

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■「SOFIA」で金星を観測

Hübers氏らの研究チームは、DLRとNASA (アメリカ航空宇宙局) が共同で運用していた「SOFIA」による金星の観測を行いました。SOFIAは2.5mの反射望遠鏡を搭載するように改造したボーイング747-SPで、地表では水蒸気で邪魔されて観測が難しい赤外線領域の観測に適しています。

今回の観測は2021年11月に3回の飛行と観測を行い、分光計「upGREAT」によって金星からの光を詳細に分析しました。今回の観測では、合計で金星の17ヶ所からの分光データを取得することができました。内訳は昼側が7ヶ所、夜側が9ヶ所、昼夜の境目が1ヶ所です。

【▲図2: SOFIAによって観測された金星の輝度温度 (a) 、原子状酸素の温度 (b) 、原子状酸素の濃度 (c) 。昼側 (円の右側) は夜側 (円の左側) と比べて濃度が高い。 (Image Credit: ) 】
【▲図2: SOFIAによって観測された金星の輝度温度 (a) 、原子状酸素の温度 (b) 、原子状酸素の濃度 (c) 。昼側 (円の右側) は夜側 (円の左側) と比べて濃度が高い(Credit: DRL, Heinz-Wilhelm Hübers, nature) 】

その結果、全ての観測された分光データから原子状酸素の存在を示す光の観測記録を得ることができました。地球の大気にも原子状酸素は含まれていますが、金星からの光はドップラー効果で波長がズレていることから区別が可能であり、またupGREATの性能が優れているため、原子状酸素からの光が地球のものなのか金星のものなのかを区別することができました。金星の昼側で原子状酸素を観測したのは今回が初めてのことです。

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今回の観測によって、昼側と夜側で原子状酸素の濃度を比較することもできるようになりました。結果は、夜側より昼側の方が、原子状酸素の濃度が高いという結果となり、これは太陽光で原子状酸素が生成しているという事前の予測とも良く合致します。

【▲図3: NASAとDLRが2022年9月まで運用していた成層圏赤外線天文台「SOFIA」(Credit: NASA/Carla Thomas)】
【▲図3: NASAとDLRが2022年9月まで運用していた成層圏赤外線天文台「SOFIA」(Credit: NASA/Carla Thomas)】

■金星大気の謎を解く手掛かりに

興味深い観測結果として、今回観測された原子状酸素の温度は、昼側ではマイナス93℃、夜側ではマイナス158℃であると測定されたデータがあります。これはどちらも高度100kmに相当します。金星全体をめぐる大きな大気循環としては、高度70kmのスーパーローテーション (※) と、高度120kmの昼側から夜側への大気の流れがあります。高度100kmはちょうど中間に位置することから、原子状酸素の発生現場と大気循環に何か関連があるのかもしれません。

※…天体の自転速度よりずっと高速で循環する大気の流れのことをスーパーローテーションと呼びます。金星のスーパーローテーションはかなり高速である上に、自転の回転方向と逆向きであるという特徴があります。

金星の直径や質量は地球と類似しており、時に “兄弟星” と表現されることもありますが、大気の性質は大幅に異なります。大気のどのような違いが地球と金星の運命を分けたのかを知るために、今回の原子状酸素の発見のような詳細な観測が必要となります。

 

Source

  • Heinz-Wilhelm Hübers, et al. “Direct detection of atomic oxygen on the dayside and nightside of Venus”. (Nature Communication)
  • Bob Yirka. “Presence of atomic oxygen confirmed on both day and night sides of Venus”. (Phys.org)
  • Michelle Starr. “It’s Official: Oxygen Has Been Directly Detected in Venus’ Dayside Atmosphere”. (Science Alert)
  • News Staff. “Astronomers Directly Detect Atomic Oxygen on Venus”. (Sci News)

文/彩恵りり

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