-PR-

恒星と巨大ガス惑星の中間的な天体「褐色矮星」の一部は強力な磁場を持つことが知られていますが、その正確な起源は分かっていません。シドニー大学のKovi Rose氏などの研究チームは今回、表面温度426℃の褐色矮星「WISE J062309.94–045624.6」が強力な磁場を持つことを電波観測によって明らかにしました。これは電波で観測された最も低温の褐色矮星です。検出された電波は磁場に由来するオーロラが発生源ではないかと考えられています。

【▲ 図1: 強力な磁場とオーロラを持つ褐色矮星の想像図。 (Image Credit: NRAO/AUI/NSF) 】
【▲ 図1: 強力な磁場とオーロラを持つ褐色矮星の想像図(Credit: NRAO/AUI/NSF)】

太陽を含む「恒星」には強力な磁場が存在しています。恒星の磁場は、星の内部で発生する複数の小さな磁場の渦がまるで糸巻のように1つの大きな磁場に巻き上げられることによって発生すると考えられています。このような磁場が発生する理由は複雑ですが、恒星の内部が複数の層に分かれていることが主な理由の1つであると考えられています。

その一方で、「褐色矮星」 (※1) の内部は恒星とは異なり層に分かれてはおらず、磁場を巻き上げる作用が起こる条件を満たしていないため、強力な磁場は発生していないと考えられています。しかし実際には、褐色矮星の10%未満はかなり強力な磁場を持っていることが観測されています (※2) 。なぜ、一部の褐色矮星だけがこのような強力な磁場を持つのかは長年の謎となっています。

※1…太陽のような恒星と、木星のような巨大ガス惑星の中間の質量を持ち、性質も中間的であると考えられている天体です。誕生直後の短期間だけ起きた核融合反応の余熱で輝き、ゆっくり冷えていくと考えられています。

※2…本文中の「褐色矮星の10%未満」という数値は、正確には褐色矮星のなかでも温度が比較的高い「超低温矮星 (UCD; Ultra cool dwarf)」に対する値です。超低温矮星よりもさらに低温の褐色矮星も存在するので、「褐色矮星の」と表記するのは厳密には正しくありませんが、超低温矮星はあまり使用されない用語であるため、このような表現とさせていただきました。

-PR2-

天体の磁場を直接測定することはできませんが、磁場に由来する電波の放出を観測することは可能です。電波の周波数や強度の変化には磁場の性質や状態変化の情報が含まれているため、電波観測を行うことで磁場の起源を間接的に推定することができます。しかし、褐色矮星から放射される電波は非常に弱いため、電波で観測できていない褐色矮星も多数存在しており、褐色矮星における磁場の研究の妨げとなってきました。

シドニー大学のKovi Rose氏などの研究チームは、一部の褐色矮星だけが強力な磁場を持つ謎を知るために、オランダ電波天文学研究所(ASTRON)の電波望遠鏡「LOFAR」と、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の電波望遠鏡「ASKAP」で得られた観測データを分析しました。

【▲ 図2: WISE J062309.94–045624.6は、電波で観測された最も低温の褐色矮星となった (中央の赤い点) 。 (Image Credit: Kovi Rose, et.al.) 】
【▲ 図2: WISE J062309.94–045624.6は、電波で観測された最も低温の褐色矮星となった (中央の赤い点) 。(Credit: Kovi Rose, et.al.)】

対象となったのは、地球から約37光年離れた位置にある褐色矮星「WISE J062309.94–045624.6」です。WISE J062309.94–045624.6の推定表面温度は426℃であり、質量は褐色矮星の下限に近い木星の約13.2倍です。

-ad-

分析の結果、研究チームはWISE J062309.94–045624.6に由来する電波を見つけ出すことに成功し、最低でも350ガウス以上の磁場(磁束密度)が存在することが分かりました。この数値から単純に計算すると、WISE J062309.94–045624.6は地球の約90万倍、木星の約40倍も強力な “磁石” ということになります。なお、WISE J062309.94–045624.6は電波観測に成功した最も低温の褐色矮星となりました。

今回の研究ではWISE J062309.94–045624.6がどのようにして強力な電波を生み出しているのかは十分に判明しませんでした。しかし、電波観測のデータは、WISE J062309.94–045624.6の電波の特性が巨大ガス惑星に見られるオーロラ由来の電波に似ていることを示しています。このようなオーロラは、天体の磁場の自転速度と大気上層部の循環速度が異なる場合に発生します。WISE J062309.94–045624.6の自転周期は褐色矮星の平均値 (5時間) よりもかなり短い約1.9時間であることが今回の観測で判明しており、検出された電波の源がオーロラである可能性は十分にあります。

また、オーロラ由来の電波は放出される範囲が狭く、地球に届くタイミングは限られていると予想されます。前述の通り、強力な磁場を持つように見える褐色矮星は全体の10%未満ですが、実際にそれしか強力な磁場を持っていないのではなく、大半は地球に届く方向へオーロラ由来の電波が放出されず、単純に見逃されているだけの可能性もあります。そうだとすれば、強力な磁場を持つ褐色矮星は珍しくないのかもしれません。強力な磁場を持つ褐色矮星は珍しいのか、それとも一般的な存在であるのかを知ることは、恒星と惑星のミッシングリンクである褐色矮星の研究において重要です。

今回の研究に使われた電波望遠鏡の1つであるASKAPは、褐色矮星に由来する電波の観測に適していると考えられています。このため、同望遠鏡で追加の観測を行えば、強力な磁場を持つ褐色矮星がさらに見つかるかもしれません。また、ASKAPは非常に感度が高く、非常に低温な褐色矮星である「Y型褐色矮星」からの電波を検出できる可能性があります。ASKAPでの観測が続けば、WISE J062309.94–045624.6よりも低温で電波放射の弱い、 “ほとんど惑星” と言えるY型褐色矮星の磁場を発見する可能性は大いにあります。

 

Source

文/彩恵りり

-ads-

-ads-