“宇宙の再電離”の現場を観測 原因は初期の銀河だったと特定
【▲ 図: 今回観測された6つのクエーサーの画像。 (Image Credit: NASA, ESA, CSA, Simon Lilly (ETH Zurich), Daichi Kashino (Nagoya University), Jorryt Matthee (ETH Zurich), Christina Eilers (MIT), Rongmon Bordoloi (NCSU), Ruari Mackenzie (ETH Zurich)) 】

私たちの宇宙では、誕生したばかりの初期の銀河によって「宇宙の再電離」と呼ばれる現象が起こったと考えられています。宇宙の再電離は極めて遠距離で起こった現象であるために、その詳しい様子を観測するのは困難でした。今回、国際的な初期宇宙の観測計画「EIGER」は、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の観測データを元に、宇宙の再電離の原因を初期の銀河だと特定することに成功したとする研究成果を発表しました。

誕生直後の宇宙は電子と原子核がバラバラに分かれた(電離した)プラズマで満たされ、光がまっすぐ進むことのできない不透明な宇宙だったと考えられています。しかし、誕生から約38万年が経って宇宙の温度が十分に下がると、電子と原子核が合体してプラズマから中性の原子になり、光はまっすぐ進むようになったと考えられています。宇宙が透明な状態となったこの時期を「宇宙の晴れ上がり」と呼びます。

その後、中性の原子が集まって恒星や初期の銀河が形成された頃、局所的に再電離が始まったと考えられています。これを「宇宙の再電離」と呼びます。初期の宇宙で誕生した恒星は非常に重いため、放射はエネルギーの高い紫外線が主体であり、周りにあるガス状の中性水素原子をプラズマ化していったと考えられています。

宇宙の晴れ上がりから再電離までの期間は、宇宙に(宇宙マイクロ波背景放射以外の)光源が存在せず、それ故に直接観測できない「暗黒時代」と呼ばれる時期にあたります。その直後にあたる宇宙の再電離の観測は初期宇宙の情報、特に大規模構造を知るための重要な手がかりとなります。

しかし、宇宙の初期の時代を知るということは非常に遠方の宇宙を観測することと同じであり、その距離の遠大さから観測には困難が伴います。また、初期の銀河は推定される再電離の原因の一つであり、クエーサーの中心部にある超大質量ブラックホールによるものであるという説や、重い粒子の崩壊のように現在の理論の枠組みを超えた新しい物理学的現象によるものであるという説もありました。

そのうえ、宇宙の晴れ上がり前と比べて宇宙の再電離が起きた時代は物質の密度がはるかに低く、宇宙の不透明度も低くて透明にかなり近いと考えられています。このため、宇宙の再電離を示す観測結果を得るのは、これまで非常に困難なことだったのです。

【▲ 図: 今回観測された6つのクエーサーの画像。 (Image Credit: NASA, ESA, CSA, Simon Lilly (ETH Zurich), Daichi Kashino (Nagoya University), Jorryt Matthee (ETH Zurich), Christina Eilers (MIT), Rongmon Bordoloi (NCSU), Ruari Mackenzie (ETH Zurich)) 】
【▲ 図: 今回観測された6つのクエーサーの画像(Credit: NASA, ESA, CSA, Simon Lilly (ETH Zurich), Daichi Kashino (Nagoya University), Jorryt Matthee (ETH Zurich), Christina Eilers (MIT), Rongmon Bordoloi (NCSU), Ruari Mackenzie (ETH Zurich))】

国際的な初期宇宙の観測計画「EIGER」(Emission-line galaxies and Intergalactic Gas in the Epoch of Reionizationの略、直訳すれば「宇宙の再電離時代の輝線銀河と銀河間ガス」)の目的は、謎多き宇宙の再電離を直接観測することです。そのために利用されたのが、宇宙誕生から8億年前後に存在した天体であることを示す赤方偏移6.0~7.1の6個のクエーサーでした。これらのクエーサーのデータは、W.M.ケック天文台の「ケック望遠鏡」、ラスカンパナス天文台の「マゼラン望遠鏡」、パラナル天文台の「超大型望遠鏡(VLT)」といった、地上の天文台による観測ですでに詳細に得られています。EIGERの研究者らは、これら6個のクエーサーをウェッブ宇宙望遠鏡で観測しました。

クエーサーの放射は地球に届くまでの間に中性水素原子の影響を受けて、特定の波長の光が吸収されます。もしもクエーサーの手前にある銀河の周辺が再電離している場合、水素原子はプラズマ化しているので、そのような銀河の近くを通過したクエーサーの放射から特定の波長が吸収されることは無くなります。また、初期の宇宙に存在する重い恒星の活動は猛烈であり、炭素・水素・マグネシウムといった重い元素も銀河の周辺部へと放出されます。これらの元素も中性水素原子と同じように、それぞれ特定の波長を吸収します。つまり、初期宇宙の強力な光源であるクエーサーから届いた光に特定の波長の吸収が生じているかどうかを調べることで、再電離がどの程度進んでいたか、重い元素がどの程度放出されていたのかを知ることができるというわけです。

観測の結果、EIGERは「宇宙の再電離を示す証拠を観測した」と報告しました。これは世界で初めての成果です。例えば「SDSS J010013.02+280225.8」というクエーサーの観測では、その方向で117個の初期の銀河が見つかりました。このデータに基づいて分析を行ったところ、宇宙誕生から9億5000万年後の宇宙では、銀河から半径約250万光年の範囲で再電離が起こっていることが判明しました。現在の宇宙でこのような再電離を示す銀河は全体の1%に過ぎませんが、初期の宇宙では再電離を示す銀河は一般的だったようです。

EIGERによる観測結果は、宇宙の再電離がクエーサーや新しい物理学ではなく、初期の宇宙に一般的に存在していた銀河によって引き起こされたことを強く示唆しています。このようにはっきりとした成果が得られたのも、今回の研究が初めてです。

また、今回の観測では重い元素の痕跡はほとんど見つかりませんでした。この結果は、宇宙の再電離が起きた頃はまだ超新星爆発のような重元素を豊富にまき散らす天文現象が起こるほどの時間が経過していなかったことを示しています。

今回の結果は、宇宙の再電離の現場を観測し、その原因を初期の銀河であると特定したという点で非常に重要です。しかし、この時代の前後に起きた星形成や暗黒時代など、初期の宇宙にはまだまだ多くの謎が残っています。EIGERは2030年代に中性水素原子からの電波を観測し、宇宙の再電離初期の時代や暗黒時代の観測を目指しており、今回の成果はその土台となるでしょう。

 

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文/彩恵りり