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小惑星探査機「はやぶさ2」と「リュウグウ」のイメージ図
【▲小惑星探査機「はやぶさ2」と「リュウグウ」のイメージ図(Credit: 池下章裕, JAXA)】

JAXA(宇宙航空研究開発機構)の小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星「リュウグウ」の試料は、太陽系誕生時の情報を保存している可能性があり、様々な角度から分析がされています。その一方、研究が進むにつれて、リュウグウはサンプルごとに由来や起源に細やかな違いがあることもわかっています。リュウグウ自身がどのような環境で誕生し、変化を受けてきたのかを知ることは、リュウグウから太陽系誕生時の環境を推定する際に必要な「補正(※1)」の指標となるはずであり、細やかな分析が必要となります。

※1…例えば、誕生から現在までの軌道変化、太陽から受け取る熱の量の変化、母天体であったころに受けた水による化学変化、現在のリュウグウは母天体と衝突天体がどの程度の割合で混合しているかなど、物理的・化学的な変化です。

はやぶさ2初期分析チームの揮発性成分分析チームは、リュウグウのサンプルに含まれる揮発性成分、特に貴ガス(希ガス)と窒素を主軸に分析を行い、リュウグウが置かれていた環境を推定した研究結果を公表しました。揮発性成分は文字通り逃げやすい物質であるため、原始的と推定される隕石の分析でも自ずから限界がありました。また、特に貴ガスについては、主に太陽風に由来すると推定されます。太陽風由来の物質は宇宙空間に晒されている天体のごく表面にしか堆積しないため、天体の表面と内部の間で物質が循環していない場合、原則として天体内部には存在しないことになります。はやぶさ2は天体表面と人工クレーター内部に由来する2種類のサンプルを採取しているため、分析結果を比較することでこれらの情報もわかることになります。

まず、チームに配布された24粒のサンプルを1つずつ分析したところ、岩石鉱物学的にはCIコンドライト隕石 (※2) と類似していることが判明しました。CIコンドライト隕石は、リュウグウのような原始的な天体を起源とする隕石であると推定されており、リュウグウのサンプルに関する以前の研究結果と一致するものです。

※2…CIコンドライトとは、イヴナ (Ivuna) 隕石を代表とする隕石の分類の1つです。初期太陽系の情報を保存しているとされ、過去様々な研究に標準指標として利用されてきました。一方でリュウグウのサンプルの詳細な分析は、隕石として落下するという事情から避けがたい、地球物質由来の汚染が存在することが判明しています。

【▲ 図1: 岩石1gあたりのアルゴン、クリプトン、キセノンの含有量。表の右上の方が量が多い。リュウグウのサンプル (橙色丸および緑色三角) は他の隕石よりも多く含まれていることが分かる。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】
【▲ 図1: 岩石1gあたりのアルゴン、クリプトン、キセノンの含有量。表の右上の方が量が多い。リュウグウのサンプル (橙色丸および緑色三角) は他の隕石よりも多く含まれていることが分かる。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】

続いてサンプルから採集された貴ガスの成分や量を調べたところ、同位体比率(※3)はCIコンドライト隕石と類似しているものの、貴ガスの量は隕石よりもはるかに多いことが判明しました。隕石の気体成分は落下したそばから揮発してしまうため、実際に採集するまでの間に逃げ出すことを避けることはできません。一方、リュウグウのサンプルは封印された環境下で地球に帰還したため、隕石よりも揮発性成分が確保されたままだったことを示しています。

※3…同じ元素に分類されるものの、質量が異なる原子のことを同位体と呼びます。同位体は極めてわずかながら物理的・化学的挙動が異なるため、同じ同位体比率を示すサンプルは、その起源が同じか、あるいは環境条件が似ていたことを示す指標となります。

特に、ネオンの同位体比率は興味深い値を示していました。気体の同位体比率を計測した16粒(リュウグウの表面由来10粒+人工クレーター内部由来6粒)のサンプルのうち、ネオンが太陽風に由来すると明確に示すことができたサンプルは2粒だけであり、どちらもリュウグウの表面から採集されたものでした。残りのサンプルには太陽風由来のネオンはほとんど含まれておらず、プレソーラーガス(※4)由来のネオンと、起源不明の物質由来のネオンが様々な割合で混ざっていることがわかりました。ただし、起源がわかっていない後者のネオンについても、おそらくナノダイヤモンドや黒鉛といった炭素質プレソーラー粒子に由来すると推定されていることから、どちらも太陽系誕生以前に存在した物質に由来するネオンであると推定されます。また、キセノンは同位体比率のばらつきや量の少なさから、ネオンほど確度は高くないものの、プレソーラーガス由来のキセノンが含まれていると推定されます。

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※4…太陽系は、それ以前に超新星爆発などでまき散らされた物質が寄り集まって誕生したと推定されています。太陽系誕生時の熱や化学反応の影響を受けるより以前の値を示していると思われる物質をプレソーラー (太陽系以前) と呼びます。

一方で、サンプルを封印したカプセルも、地球大気由来の汚染を完全に避けることはできません。アルゴンの同位体であるアルゴン40(※5)は汚染指標の1つであり、実際のサンプルの分析でも多く検出されました。ただし、アルゴン40の量はサンプルごとにばらつきもあることから、地球の大気による汚染と、もとからあったサンプルどうしの違いが複雑に絡み合った結果だと推定できます。

※5…アルゴン40は、カリウム40の放射性改変で生成される安定同位体です。カリウム40自体は岩石などの固体成分に含まれるため、宇宙空間よりも岩石天体の表面に多く存在する傾向にあります。たとえば地球の大気に含まれるアルゴン40の割合は、宇宙の平均値よりもずっと高いことがわかっています。また、カリウム40の量は鉱物の組成に依存するため、サンプルごとに細かく異なる鉱物組成、言い換えればカリウム40の量の違いから、サンプルごとにアルゴン40の量が異なる理由を説明できます。

【▲ 図2: サンプルに含まれる窒素同位体の組成。4サンプルのうち2サンプルは窒素15の割合が極端に少ない。一方で地球大気による汚染の影響は顕著ではなく、同位体組成の違いはサンプルそれ自体の性質によるものと推定される。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】
【▲ 図2: サンプルに含まれる窒素同位体の組成。4サンプルのうち2サンプルは窒素15の割合が極端に少ない。一方で地球大気による汚染の影響は顕著ではなく、同位体組成の違いはサンプルそれ自体の性質によるものと推定される。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】

これとは別に、リュウグウのサンプル4粒について、窒素の同位体比率の分析が行われました。その結果、窒素の同位体比率は地球大気由来の汚染をほとんど受けていないことと、窒素15の割合をもとに少なくとも2種類に分類できることがわかりました。どちらの種類にもリュウグウの表面と人工クレーター内部に由来するサンプルが1粒ずつ含まれていることから、窒素15の割合にはリュウグウの表面と内部の違いではなく、リュウグウを構成する個々の岩石が過去に受けた多様な環境変化が反映されていると推定されます。特に、2種類のうち窒素15の割合が極めて低い片方の種類については、過去の研究で「リュウグウはそれほどの高温に晒されたわけでない」可能性が示されていることを考慮すると、リュウグウの母天体が受けてきた水による化学反応や脱水過程によって窒素15が失われるプロセスがあったことを推測させます。

【▲ 図3: リュウグウの表面が受けている宇宙空間との相互作用。太陽風は表面のごく薄い部分にしか到達しないのに対し、銀河宇宙線は深さ1~2mまで到達する。 (Image Credit: 九州大学) 】
【▲ 図3: リュウグウの表面が受けている宇宙空間との相互作用。太陽風は表面のごく薄い部分にしか到達しないのに対し、銀河宇宙線は深さ1~2mまで到達する。 (Image Credit: 九州大学) 】

また、太陽風由来のネオンを含んでいた2粒のサンプルの詳細な分析結果も興味深いものです。太陽風は天体表面のごく薄い部分(約100nm・0.0001mm)にしか到達しないため、ネオンの存在量をもとにサンプルが天体の最表面にあった期間を推定できます。リュウグウの現在の軌道から計算すると、2粒はそれぞれ3500年間と250年間、リュウグウの表面に存在したことになります。これは月やイトカワで計測された値よりずっと短い期間です。また、太陽風由来のネオンが極めて少ないその他のサンプルは、長くても数十年程度しか表面に存在しなかったことを示しています。つまり、太陽風由来のネオンが豊富に見つかったサンプルはとても例外的で、大部分のサンプルはリュウグウの表面に短期間しか露出していなかったことがわかります。一方で、人工クレーターの内部に由来するサンプルには太陽風由来のネオンが多いサンプルはなかったことや、ベリリウム10 (※6) の量から推定される宇宙線の影響も考慮して推定すると、表面下1~2m程度の範囲では物資の攪拌があまり起こらなかったと推定されます。

※6…放射性同位体のベリリウム10は、半減期が約140万年と短いため、現在見つかるものは宇宙線による窒素原子や酸素原子の破砕によるものと推定されています。リュウグウの岩質から推定すると、宇宙線は地下2m程度まで届くと推定されます。はやぶさ2が作り出した人工クレーターは深さ約1.7mであることから、その範囲内となります。

明確な地質活動が存在しないリュウグウにおいて、表面と内部の物質を攪拌する原動力となるのは天体衝突です。ネオンの同位体比率と宇宙線の影響、そしてそれぞれのサンプルが存在した場所を考慮すると、リュウグウの表面に存在していたサンプルと人工クレーターの内部に由来するサンプルはどちらも、宇宙線に照射されていた期間……つまり、隕石衝突による攪拌があまり起こらなかった期間は約500万年だと推定されました。リュウグウの表面に存在するクレーターの数や、現在のリュウグウの軌道から推定される天体衝突の頻度から計算すると、現在存在するクレーターの年齢は200万年から800万年となり、これは先の撹拌があまり起こらなかった推定期間とよく一致します。一方で、かつてのリュウグウは小惑星帯に存在していたと推定されていますが、無数の小天体が存在する小惑星帯では天体衝突の頻度がより高く、クレーターの年齢もより短い10万年から30万年となります。これは、約500万年間に渡って天体衝突による攪拌があまりなかったという先の推定とは一致しません。したがって、リュウグウが現在の軌道に移動したのは、今から約500万年前であると推定することができます。

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最後に、気体の放出を促進するためにサンプルを200℃未満まで加熱したところ、宇宙線由来のネオンと太陽風由来のネオンはどちらも、100℃という比較的低温の加熱で大部分が簡単に遊離することがわかりました。これは、CIコンドライト隕石を300℃まで加熱して得られる貴ガスよりもずっと大きい割合です。宇宙線由来のネオンの量から推定すると、分析されたサンプルは、少なくとも過去100万年の間に100℃以上の高熱を受けていないことがわかります。これは過去の様々な研究と一致する結果です。一方で、リュウグウ表面の中緯度地域におけるスペクトルの分析結果からは、高熱を受けたことを示唆する赤い物質が多く存在することが分かっています (※7) 。これは過去の軌道変化により、太陽からの熱をより多く受けていた期間があることを示しています。宇宙線由来のネオンの存在のことを考慮すると、赤い物質が生じるほどの高熱を受けるイベントは100万年より前に起きたことが推定されます。

7…恐らく、高熱を受けた物質は中緯度地域だけでなく、赤道を含む低緯度地域にも存在するはずです。ただし、過去にリュウグウが高速で自転していた際の遠心力で、赤道に物質が堆積したため、現在では埋もれて見えないと推定されます。

【▲ 図4: 今回の研究結果から推定される、現在のリュウグウの形成過程。1. リュウグウの母天体が、太陽系誕生以前の気体や、始原的な気体を取り込んで形成される。2. 約45億6000万年前、母天体内部で水による化学反応が発生する。3. 母天体の破片が再集積し現在のリュウグウの形へ。4. 約500万年前に現在の軌道になり、地球近傍小惑星へ。5. 100万年以上前、加熱により表面に赤化が発生する。6. 現在のリュウグウ。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】
【▲ 図4: 今回の研究結果から推定される、現在のリュウグウの形成過程。1. リュウグウの母天体が、太陽系誕生以前の気体や、始原的な気体を取り込んで形成される。2. 約45億6000万年前、母天体内部で水による化学反応が発生する。3. 母天体の破片が再集積し現在のリュウグウの形へ。4. 約500万年前に現在の軌道になり、地球近傍小惑星へ。5. 100万年以上前、加熱により表面に赤化が発生する。6. 現在のリュウグウ。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】

今回の分析では、リュウグウが受けてきたであろう表面変化について、多くの数値が算出されました。この結果はリュウグウの起源だけでなく、リュウグウが現在の軌道へと移動してきた過程を推定することにもつながります。直近の物理的・化学的な変化を詳しく知ることで、リュウグウを通じて太陽系誕生時の様子を探る際に必要となる補正がもたらされることでしょう。

 

関連:はやぶさ2はリュウグウから「気体」を持ち帰っていた!地球近傍小惑星では世界初

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文/彩恵りり

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