小惑星探査機「はやぶさ2」が高度約6kmから撮影した小惑星「リュウグウ」(Credit: JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研)

【▲参考画像:小惑星探査機「はやぶさ2」が高度約6kmから撮影した小惑星「リュウグウ」(Credit: JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研)】

太陽系の成り立ちを調べるには、太陽系の形成初期からほとんど変質していないとされている物質が一番の手掛かりとなります。これまでは、地球に飛来した最も原始的とされるタイプの隕石を分析することによって研究が行われてきました。しかし、そのような隕石の発見は数えるほどしか記録されておらず、まず試料そのものの乏しさが問題です。特に、隕石の「気体」成分に関する情報は、固体や液体と比べて極めて乏しいものです。気体は文字通りの揮発成分ですので、地球に落下したそばから逃げ出してしまいます。同時に、気体は地球の大気による汚染も受けるため、滅多に落下してこない珍しいタイプの隕石を、落下から数十時間以内という短時間で見つけることが求められてしまいます。試料から気体を見つけて調べようとすると、試料そのものの希少性や入手の不安定さが問題として立ちはだかるのです。

気体に注目が集まるのは、それらの中に「貴ガス (希ガス)」が含まれている可能性があるからです。たとえば水素や酸素や窒素といった気体は、化学反応によって生成された化合物として固体などの形態で天体に閉じ込められる可能性があります。ところが、貴ガスは他の物質とほとんど化学反応を起こすことがなく (※1) 、化学反応による状態変化を一切受けないため、天体の環境条件による挙動を正確に予測しやすいというメリットがあります。このため、特に貴ガスを中心とした気体の発見が期待されていました。

※1…ここで言う化学反応とは、一般的に想像される化合や分解も含みますが、ガスハイドレートの形成など、他の物質表面への付着や結晶内部への吸着も含みます。

JAXA (宇宙航空研究開発機構) の小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った「リュウグウ」のサンプルには、まさにそのような気体成分が含まれている可能性がありました。はやぶさ2初期分析チームのうちの揮発性成分分析チームは、はやぶさ2の帰還試料に貴ガスを含む気体成分があるのかどうか、あるとしたらそこにはリュウグウ由来の気体が含まれているのかどうかの分析に当たりました。特に貴ガスは、極めてわずかな隙間からも流入・流出するため (※2) 、気体の回収は最優先事項でした。今回の研究では、カプセルの帰還から30時間後に、カプセル内部の気体を回収する措置が取られました。

※2…他の気体分子とは異なり、貴ガスは原子1個で存在する単原子分子です。化学反応もほとんどしないことから、原理的には原子1個分の隙間があれば出入りが発生するため、流入や流出をゼロにすることはできません。このため、地球の大気による汚染を前提として分析が行われました。

はやぶさ2のカプセル内部の圧力は68Pa (地球大気の0.07%) と、初代はやぶさの約5000Paよりもずっと低い値でした。初代はやぶさのカプセルは二重Oリングガスケットで封印されていましたが、はやぶさ2のカプセルはメタルシール機構で封印されていたという違いがあり、はやぶさ2では初代はやぶさよりもカプセルの封印が機能していたことが示されました。ただし、この中の気体が全てリュウグウ由来とは限らず、地球大気の流入もゼロではないと見られています。気体を分析するには、リュウグウ由来と地球由来の割合を正確に測定する必要があるのです。

【▲ 図1: リュウグウのサンプルが収められたコンテナ内に含まれる気体成分の質量分析結果。生データ (灰色点線) から分析装置由来のデータを除いたもの (青色実線) で表される。注目されるのは「m/z 4」と書かれた部分であり、これはヘリウム4が地球大気の標準値 (赤点) より過剰に含まれていることを示している。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】

【▲ 図1: リュウグウのサンプルが収められたコンテナ内に含まれる気体成分の質量分析結果。生データ (灰色点線) から分析装置由来のデータを除いたもの (青色実線) で表される。注目されるのは「m/z 4」と書かれた部分であり、これはヘリウム4が地球大気の標準値 (赤点) より過剰に含まれていることを示している。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】

【▲ 図2: コンテナ内気体成分のヘリウムとネオンの同位体組成 (緑点) 。これらは地球大気と太陽風由来貴ガスを様々な割合で混合した線上にあることから、太陽風由来の貴ガスが含まれていると説明できる。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】

【▲ 図2: コンテナ内気体成分のヘリウムとネオンの同位体組成 (緑点) 。これらは地球大気と太陽風由来貴ガスを様々な割合で混合した線上にあることから、太陽風由来の貴ガスが含まれていると説明できる。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】

【▲ 図3: コンテナ内気体成分の同位体別の存在度。アルゴン36を基準に相対量で表すと、ヘリウム4が地球大気の数十倍も多く含まれていることが分かる。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】

【▲ 図3: コンテナ内気体成分の同位体別の存在度。アルゴン36を基準に相対量で表すと、ヘリウム4が地球大気の数十倍も多く含まれていることが分かる。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】

カプセル内部に閉じ込められた気体のうち、分析用に回収することができたのは約80%でした。質量分析計を使って気体原子または分子の質量とイオン価数の比率を調べたところ、特にヘリウム4が地球大気と比べて過剰に多いことがわかりました。さらに詳しく分析を進めたところ、ヘリウムとネオンの同位体比率 (※3) が地球大気とは顕著に異なることも判明しました。この比率は、地球大気と太陽風に由来する貴ガスが混合しているとすればシンプルに説明できます。つまり、はやぶさ2のカプセルに含まれていた気体には、リュウグウに衝突して付着した太陽風由来の貴ガスが含まれていることが判明したのです。地球近傍小惑星から気体を持ち帰ったのは、はやぶさ2が世界初の事例となります。

※3…同じ元素に分類されるものの、質量が異なる原子のことを同位体と呼びます。同位体は極めてわずかながら物理的・化学的挙動が異なるため、同じ同位体比率を示すサンプルは、その起源が同じか、あるいは環境条件が似ていたことを示す指標となります。

一方で、カプセル内部から回収された気体に水・アンモニア・二酸化炭素は検出されず、メタンも極めてわずかしか含まれていないことも合わせて示されました。また、アルゴンや窒素の同位体比率は地球大気と近く、これは地球の大気による汚染を示していると推定されます (※4) 。これらの結果により、リュウグウ由来の気体成分が存在することは確かなようであり、地球大気に由来する汚染の割合も推定できます。

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※4…地球大気の組成は、約8割が窒素、約1%がアルゴンであり、汚染がよく現れているのは妥当であると考えられます。一方で約2割を占める酸素は、カプセル内の気体成分からはほとんど検出されませんでした。これは、カプセル内壁を構成するアルミニウム合金に酸素が吸着したためであると考えられています。

では、リュウグウ由来と思われるヘリウムやネオンは、正確にはどこから来たのでしょうか? リュウグウ由来の貴ガスは、元々は多孔質なリュウグウの岩石内部に閉じ込められていたものであり、採取されてから地球に帰還するまでの間に、封印されたカプセルの内部で少しずつ放出されたはずです。貴ガスの放出は、帰路に受けたであろう振動や加熱によって促進された可能性もあります。研究では「サンプルが表面・内部の区別なくバラバラに砕けた場合」と「サンプルの表面だけが剥がれた場合」の2つのルートで、それぞれ気体成分がどのように放出されたのかをシミュレーションし、実際の測定結果と照らし合わせました。

【▲ 図4: リュウグウのサンプルが表面・内部の区別なくバラバラに砕けた場合 (A) と、表面だけが剥がれた場合 (B) の模式図。太陽風が付着しているサンプルの最表面部分を赤色の縁取りで表している。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】

【▲ 図4: リュウグウのサンプルが表面・内部の区別なくバラバラに砕けた場合 (A) と、表面だけが剥がれた場合 (B) の模式図。太陽風が付着しているサンプルの最表面部分を赤色の縁取りで表している。 (Image Credit: Okazaki, et.al.) 】

その結果、サンプルの表面だけが剥がれた場合を仮定すると、総表面積の約2%が剥がれれば、気体成分の内容をよく説明できることが分かりました。リュウグウ由来と見られるヘリウムやネオンは、元々は太陽風に由来するものであり、サンプル粒子の表面約50nm (0.00005mm) に偏在していると推定されることからも、この推定は妥当と思われます。逆に、サンプルが表面・内部の区別なくバラバラに砕けた場合を仮定すると、サンプルはかなり粉砕されている必要があります。ところが、実際には直径数mm (中央値1.3mm) のサンプルが多数あることから、その可能性は低いと考えられます。また、カプセル内部のコンテナは最高でも65℃の熱しか受けていないことが分かっています。過去の隕石や月のサンプルにおける、熱による太陽風由来の貴ガス成分の放出量を考慮すると、はやぶさ2の帰還サンプルが熱によって気体成分を放出した可能性は低いと考えられます。

今回の研究では、研究試料として得難く、採集や持ち運びも困難だと考えられる気体成分を、小惑星探査機によるサンプルリターンミッションで取得することが可能であることを示しました。はやぶさ2が成し遂げたミッションはこの意味でも非常に重要であり、小惑星からのサンプルがいかに科学的に重要な “玉手箱” であるのかを示しています。

 

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文/彩恵りり

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