海王星で予想外の気温変化が捉えられた。すばる望遠鏡も研究に貢献!
This composite shows thermal images of Neptune taken between 2006 and 2020. The first three images (2006, 2009, 2018) were taken with the VISIR instrument on ESO’s Very Large Telescope while the 2020 image was captured by the COMICS instrument on the Subaru Telescope (VISIR wasn’t in operation in mid-late 2020 because of the pandemic). After the planet’s gradual cooling, the south pole appears to have become dramatically warmer in the past few years, as shown by a bright spot at the bottom of Neptune in the images from 2018 and 2020.
超大型望遠鏡(VLT)の「VISIR」(2006年・2009年・2018年)とすばる望遠鏡の「COSMIC」(2020年)によって取得された海王星の熱赤外線画像(Credit: ESO/M. Roman, NAOJ/Subaru/COMICS)
【▲ 超大型望遠鏡(VLT)の「VISIR」(2006年・2009年・2018年)とすばる望遠鏡の「COSMIC」(2020年)によって取得された海王星の熱赤外線画像(Credit: ESO/M. Roman, NAOJ/Subaru/COMICS)】

こちらは、2006年から2020年にかけて撮影された海王星の熱赤外線画像(疑似カラー)です。2006年・2009年・2018年の画像はヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」に設置されている中間赤外線撮像分光装置「VISIR」を使って、2020年の画像は国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」に同年まで設置されていた冷却中間赤外線撮像分光装置「COMICS」を使って取得されたものです。

赤外線の輝度は海王星の成層圏における気温と連動しているため、熱赤外線画像からは海王星の気温を読み取ることができます。レスター大学のMichael Roman博士を筆頭とする研究グループは、過去20年ほどの間に取得された中間赤外線での観測結果をもとに、海王星の気温変化に関する研究成果を発表しました。

VLTやすばる望遠鏡などが取得した海王星の熱赤外線画像は、研究者を驚かせることになりました。研究グループによると、海王星の成層圏は南半球の季節が夏に移ってからも全体の平均気温が徐々に低下し続けた後に、南極域では急速に温暖化するという予想外の変化を示したといいます。

■海王星の成層圏における予想外の平均気温低下と南極域での急速な気温上昇を発見

ハッブル宇宙望遠鏡が2021年9月に撮影した海王星(Credit: NASA, ESA, A. Simon (Goddard Space Flight Center), and M.H. Wong (University of California, Berkeley) and the OPAL team)
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が2021年9月に撮影した海王星(Credit: NASA, ESA, A. Simon (Goddard Space Flight Center), and M.H. Wong (University of California, Berkeley) and the OPAL team)】

半径約30天文単位(太陽から地球までの距離の約30倍)の軌道を公転する海王星は、太陽を1周するのに約165年かかります。海王星の自転軸は約28度傾いているので地球のように四季の変化がありますが、このように公転周期が長いため、1つの季節は約40年続くことになります。

海王星の南半球は、2005年から季節が夏に移っています。そこで研究グループは、南半球が夏を迎えてからの海王星の気温変化を調べるために、17年間に渡って取得された海王星の熱赤外線画像100点近く(※)を分析しました。

※…今回の研究では超大型望遠鏡(VLT)やすばる望遠鏡をはじめ、W.M.ケック天文台の「ケック望遠鏡」、ジェミニ天文台の「ジェミニ北望遠鏡」と「ジェミニ南望遠鏡」、アメリカ航空宇宙局(NASA)が2020年まで運用していた宇宙望遠鏡「スピッツァー」によって取得された画像が用いられています。

海王星の成層圏気温の指標となる中間赤外放射輝度の変化を示した図。輝度が高いほど成層圏の気温も高い。上段の画像は冒頭と同様にVLT(2006年、2009年、2018年)とすばる望遠鏡(2020年)が取得した海王星の中間赤外線画像(Credit: Michael Roman/NASA/JPL/Voyager-ISS/Justin Cowart)
【▲ 海王星の成層圏気温の指標となる中間赤外放射輝度の変化を示した図。輝度が高いほど成層圏の気温も高い。上段の画像は冒頭と同様にVLT(2006年、2009年、2018年)とすばる望遠鏡(2020年)が取得した海王星の中間赤外線画像(Credit: Michael Roman/NASA/JPL/Voyager-ISS/Justin Cowart)】

その結果にRomanさんたちは驚きました。南半球の季節が夏に移ったにもかかわらず、海王星の成層圏における全球平均気温は、2003年から2018年にかけて摂氏8度も低下していたのです。「この変化は予想外でした。2003年は海王星の南半球の初夏にあたり、地球から見える平均気温は徐々に高くなると考えていました」(Romanさん)

さらに研究グループを驚かせたのは、南極域の温度変化です。海王星の成層圏は2018年から2020年にかけて、南極域での気温が摂氏11度も上昇していたことがわかりました。海王星の極域でこれほど急速な気温上昇が確認されたのは、今回が初めてだといいます。

研究に参加したNASAジェット推進研究所(JPL)のGlenn Orton博士は「私たちのデータは海王星の1つの季節の半分もカバーしていませんでしたから、大規模な変化が観測されるとは誰も予想していませんでした」と語っています。

【▲ VISIRを使って2006年~2021年にかけて取得された海王星の中間赤外線画像を示した動画】
(Credit: ESO/M. Roman)

予想外の全球平均気温低下に続く、南極域での気温急上昇。海王星の成層圏でこのような気温変化が生じた理由は、今のところわかっていません。Romanさんは季節によって変化する大気の化学的性質、気象パターンのランダムな変化、11年周期で変化する太陽活動などが関連している可能性に言及していますが、理由を突き止めるにはさらなる観測が必要です。

研究グループは、2022年夏から科学観測を開始する予定の宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」をはじめ、建設が進められているESOの「欧州超大型望遠鏡(ELT)」のような近い将来登場する大型の望遠鏡に期待しています。

COMICSの最終観測夜に撮影されたすばる望遠鏡本体と藤吉博士(Credit: 国立天文台)
【▲ COMICSの最終観測夜に撮影されたすばる望遠鏡本体と藤吉博士(Credit: 国立天文台)】

なお、すばる望遠鏡のCOSMICが取得した海王星の熱赤外線画像は、ハワイ時間2020年7月30日夜に実施されたCOSMIC最後の観測時に得られたものだったといいます。当時観測を行った東北大学の笠羽康正博士と国立天文台ハワイ観測所の藤吉拓哉博士は「最後の機会ということで、木星、土星、天王星、海王星のデータを丁寧に取得していきました。その中からこの貴重な発見を得たのは誠に驚きであり喜ばしいことです」とコメントしています。

 

関連:ハッブルが撮影した「木星・土星・天王星・海王星」2021年の最新画像公開!

Source

  • Image Credit: ESO/M. Roman, NAOJ/Subaru/COMICS
  • ESO - ESO telescope captures surprising changes in Neptune's temperatures
  • 国立天文台すばる望遠鏡 - 海王星は思ったより冷たい - 大気温度の予想外の変化が明らかに

文/松村武宏