2019年5月にスペースXがスターリンク衛星の大量打ち上げを開始して以来、数千、数万の人工衛星で構築された衛星コンステレーションによる「光害」を懸念する声があげられています。米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)とアメリカ天文学会(AAS)は、衛星コンステレーションが観測に及ぼす影響を評価するワークショップ「SATCON1(Satellite Constellations 1)」を6月29日から7月2日にかけて共同で開催し、8月25日にレポートを公表しました。
250人以上の天文学者やスペースXなど民間企業からのメンバーが参加したSATCON1では、スペースXが将来追加で打ち上げを計画している3万基の第2世代スターリンク衛星(高度614km未満)と、ワンウェブが計画している最大4万8000基の衛星コンステレーション(高度1200km)を対象に、来年の観測開始が予定されているチリのヴェラ・ルービン天文台(南緯30度)に対する影響が評価されました。
レポートによると、日の入りから天文薄明(太陽の高度が水平線下12度~18度にある、空の明るさが星よりも明るい時間帯の目安)あるいは天文薄明から日の出までの影響はどの高度でもあまり変わらないものの、日の入り後の天文薄明から日の出前の天文薄明のあいだ……つまり夜間の影響は高度によって異なります。高度600km未満を周回する場合は衛星が地球の影に入ることで深夜になれば影響は緩和されるものの、高度1200kmを周回する衛星コンステレーションの場合、夏の季節は一晩中視認できる可能性が示されています。
観測対象がアンドロメダ銀河や大マゼラン雲のように比較的広い範囲に見える天体の場合、30秒ごとに高度1200kmの衛星コンステレーションの軌跡が重なることになるようです。レポートでは、衛星コンステレーションが世界中の天文台に深刻な影響を与えるだけでなく、アマチュアの天文学者や天体写真家をはじめ自然に親しむすべての人々にとっての星空を台無しにする可能性があると指摘されています。
SATCON1はレポートにおいて、天文学への影響を緩和する最も確実な方法は「地球低軌道を周回する衛星の数を減らすかゼロにする」ことだが、これは非現実的だとしつつ、より現実的な解決策として「衛星に600km以下の軌道を周回させる」「衛星の色を暗くするかサンシェードを装着する」「衛星の姿勢を調整して地球への反射光を減らす」「天文台で撮影された画像の処理中に衛星の軌跡による影響を最小化するか最終的に排除する」「衛星が写り込むのを避けられるように正確な軌道情報を利用する」必要があるとしています。
ワークショップにも参加したスペースXは、衛星コンステレーションが及ぼす影響を抑えるための取り組みをヴェラ・ルービン天文台とともに進めています。最近打ち上げられたスターリンク衛星はアンテナによる地上への太陽光反射を防ぐためのサンバイザーが装備された「バイザーサット」仕様になっており、今回公表されたレポートでも影響を緩和しようとする最新の取り組みとして言及されています。
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立地の例とされたヴェラ・ルービン天文台の「大型シノプティックサーベイ望遠鏡(LSST)」(口径8.4m)だけでなく、ヨーロッパ南天天文台の「欧州超大型望遠鏡(ELT)」(口径39m)や国立天文台も参加している「30メートル望遠鏡(TMT)」(口径30m)のように、世界では今後何十年も活躍することになる大型望遠鏡の建設が進められています。コスト、保守管理、観測装置の操作といった点から宇宙には設置できないとされるこれら次世代の観測手段を用いる研究者と、大規模な衛星コンステレーション構築を目指す民間宇宙企業、双方の連携が注目されます。
Image Credit: NOIRLab/NSF/AURA/P. Marenfeld
Source: NOIRLab
文/松村武宏