2019年の元旦に「アロコス」(観測当時は通称「ウルティマ・トゥーレ」と呼ばれていたカイパーベルト天体)を接近観測したNASAの探査機「ニュー・ホライズンズ」は、今も太陽系の外へ向かって飛行を続けています。今回、ニュー・ホライズンズによって撮影された星空の画像が2点公開されました。特に変わった様子のない星空に見えますが、その意義は地球で撮影された画像と並べることで見えてきます。
■プロキシマ・ケンタウリとウォルフ359を立体視できるステレオグラム
人間が物や景色を立体的に見ることができるのは、右目と左目が離れていることで視差が生じるからです。ただ、両目の間隔は6cm強に限られるため、あまり遠くの対象物を立体的に認識することはできません。では、もしもこの間隔を広げることができたら、夜空の星々を立体視することもできるのでしょうか?
NASAは6月11日、今年の4月22日から23日にかけてニュー・ホライズンズによって撮影された2つの恒星と、地球から撮影された同じ恒星の画像を公開しました。対象となったのは太陽系に比較的近い「プロキシマ・ケンタウリ」(地球からの距離は約4.2光年)と「ウォルフ359」(同7.9光年)です。
地上の天文台とニュー・ホライズンズによって撮影された画像を比べてみると、プロキシマ・ケンタウリとウォルフ359が異なる位置に写っていることがわかります。これはニュー・ホライズンズが地球からおよそ70億km、光の速さでも6時間30分近くかかるほど遠くに離れていることで生じた視差によるものです。
NASAからは70億kmを隔てて撮影された2つの画像をもとに作成されたステレオグラムも公開されていて、周囲の星々を背景に手前へ浮かび上がるようなプロキシマ・ケンタウリやウォルフ359を見ることができます。ステレオグラムの作成に携わったブライアン・メイ氏は「ニュー・ホライズンズによる立体視実験は、3D映像180年の歴史において最大の視点間距離を達成するものとなりました」とコメントしています。
人類は自分の現在地を把握するために、北極星などの星を頼りにしてきました。発表においてNASAは、いつの日か人類が銀河の探査に乗り出すときにも恒星の位置をもとにしたナビゲーションを用いることが可能であり、今回ニュー・ホライズンズによって初めてその技術が実証されたとしています。
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Image Credit: NASA
Source: NASA
文/松村武宏