潮汐作用により、月は毎年約3.8cmのペースで地球から遠ざかっています。土星の衛星タイタンも同じように土星から遠ざかっているものの、そのペースは毎年約0.1cmとみられていました。
今回、タイタンは従来の予想を大きく上回るペースで土星から遠ざかっていることが明らかになったとする研究成果が発表されています。
■タイタンは現在よりも土星に近いところで形成されていた可能性
Valéry Lainey氏(JPL:ジェット推進研究所、研究当時)らの研究チームは、土星探査機「カッシーニ」によって得られた2006年から2016年にかけての観測データを使い、タイタンの軌道を正確に調べました。カッシーニが撮影したタイタンと背景の星々との位置関係や、タイタンの重力による影響を受けたカッシーニの速度を分析した結果、タイタンは毎年およそ11cmのペースで土星から遠ざかっていることが判明したといいます。これは従来の予想と比べて100倍以上のペースです。
この結果は、今回の研究に参加したJim Fuller氏(カリフォルニア工科大学)が4年前に発表した研究成果を裏付けるものとされています。以前の研究においてFuller氏は、惑星とその衛星に働く潮汐作用が一種の共鳴状態になることで、タイタンの場合は従来の予想よりも速く土星から遠ざかっている可能性を指摘していました。
今回明らかになった事実は、土星の衛星の歴史について再考を迫るものとなるかもしれません。Fuller氏によると、これまでの研究では現在と同じような軌道でタイタンが形成されたと考えられてきました。しかし、予想よりも100倍速く土星から遠ざかっているのであれば、タイタンは今よりももっと土星に近いところで形成されてから、40億年以上の時間をかけて現在の軌道まで移動してきた可能性も考えられます。
Fuller氏は「これは土星の衛星が、場合によっては土星の環も、予想以上にダイナミックな形成と進化を経てきたことを意味します」とコメント。Lainey氏は土星の衛星に関する議論をパズルにたとえながら、今回の成果を「新たにもたらされた重要なピース」と表現しています。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute
Source: NASA/JPL / Caltech
文/松村武宏