NASAのジェット推進研究所(JPL)は9月9日、土星の衛星「タイタン」の湖を巡る謎に迫ったGiuseppe Mitri氏らの研究成果を発表しました。研究内容は論文にまとめられ、同日付でNature Geoscienceに掲載されています。
■成因不明の切り立つ湖岸は窒素の爆発的噴出で形成された可能性
今年の4月、タイタンの湖には地球のカルスト地形に似た特徴が見られるという研究内容を紹介しました。このような湖は、液体のメタンがタイタンの地殻(水の氷や有機化合物から成る)を侵食することで形成された窪地がもとになっていると考えられています。
しかし、土星探査機「カッシーニ」がもたらしたタイタンの地表観測データには、縁が盛り上がって湖岸が切り立った崖のようになっているとみられる比較的小さな湖も幾つか確認されていました。これらの湖は、地殻のへこみにメタンが貯まってできた湖とはまるで逆の特徴を持っており、どのように形成されたのかはわかっていませんでした。
今回Mitri氏らの研究チームによって示された新たな理論モデルは、侵食ではうまく説明できない盛り上がった縁を持つ湖の形成過程を説明しています。その内容は、長い時間をかけて進行するイメージの浸食作用とは異なり、一瞬にして地形を作り変えてしまうような激しい出来事があったことを示唆しています。
研究によると、過去のタイタンでは、大気の主成分と同じ窒素が液体の状態で地下の一部に貯留される時期があったとしています。この液体窒素が何らかの要因で加熱されて気体となり、地表を吹き飛ばすほどの爆発的噴出を起こしたことで、盛り上がった急峻な縁を持つ窪地が誕生します。ここに液体のメタンが貯まった結果、現在見られるような盛り上がった縁を持つ湖になったというのです。
■過去のタイタンには窒素が循環する寒冷期があった?
現在、タイタンの地表の温度は摂氏マイナス180度ほどとされています。窒素の沸点はおよそ摂氏マイナス196度ですから、液体の窒素が貯まるには今よりもっと温度が低くなければなりません。
研究チームは、タイタンの気候はここ5億年から10億年ほどの間はメタンの温室効果によって比較的温暖に保たれているものの、それ以前には寒冷な時期があり、窒素が雨となって地表に降り注ぐことで大気との間を循環していたとしており、この時期に液体窒素が地下に貯まったとしています。
その後、メタンの温室効果によって温暖な気候へと移り変わる過程で温度が上昇。地下の窒素が温められて気化し、地表に噴き出したあとの窪地に湖が形成されました。つまり、侵食作用では説明できない盛り上がった縁を持つ湖の存在は、かつてタイタンに寒冷な時期があったことの証でもあるというわけです。
カッシーニが残した観測データは、ミッション終了から2年を経た現在でも、土星やその衛星に関する新たな知見をもたらし続けています。JPLのLinda Spilker氏は「今後数十年に渡り、土星とその衛星に関する理解が深まり続けるでしょう」と語っています。
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Credit: NASA/JPL-Caltech
source: NASA
文/松村武宏