およそ138億年前のビッグバンによって誕生したこの宇宙は、今も膨張を続けていると考えられています。膨張する速度は加速していて時代ごとに異なるとみられていますが、同じ時代であれば宇宙のどこでも一定だとされてきました。今回、最近の宇宙においては観測する方向によっても膨張速度が異なっている可能性を示した研究成果が発表されています。

■不均一な暗黒エネルギーの影響で膨張速度が異なっている可能性

今回の研究によって示された、方向ごとに異なる宇宙の膨張速度(ハッブル定数)を示した全天マップ。地球から見た方向によって、膨張速度が速いところ(黄、オレンジ)と遅いところ(紫、黒)がある(Credit: K. Migkas et al. 2020)

全天から観測される宇宙マイクロ波背景放射(CMB)はビッグバンの名残とされています。その観測結果から、宇宙はどの方向にも同じ速度で膨張を開始し、加速している膨張速度も同じ時代であれば一定(等方性がある)とされてきました。Konstantinos Migkas氏(ボン大学、ドイツ)らはこの等方性を検証するための方法として、比較的最近の宇宙に存在する銀河団に注目して研究を進めていました。

研究チームがNASAの「チャンドラ」や欧州宇宙機関(ESA)の「XMM-Newton」といったX線天文衛星によって観測された313個を含む842個の銀河団について、そのX線光度と温度の関係をもとに宇宙の膨張速度(ハッブル定数)を求めたところ、地球から宇宙を見たときにある方向では膨張速度が速くて別の方向では遅いという異方性を示す結果が得られました。

研究チームは「最近の宇宙の膨張速度には異方性が認められる」という結論を下す前に、この結果が別の原因によってもたらされた可能性がないかを検討しました。たとえば、地球と銀河団の間にまだ知られていないガスや塵の集まりが存在していて、特定の方向の銀河団を暗く見せかけたのかもしれません。また、幾つかの銀河団が重力で作用し合い、同じ方向へ連れ立つように運動しているために、膨張速度の計算結果に影響を与えた可能性もあります。

しかし検討の結果、これらが原因となって膨張速度の算出に影響を及ぼしたとは考えにくく、今回の結果は過去の研究で示唆された異方性とも一致していることがわかりました。研究チームでは、宇宙の加速膨張の原因と目されている暗黒エネルギー(ダークエネルギー)そのものが一様ではなく、膨張速度の異方性は暗黒エネルギーが不均一であることの現れではないかとみています。

Migkas氏は、今回の研究結果がもしも正しければ、遠方宇宙に存在する天体までの距離を求める上では観測方向による膨張速度の違いを考慮しなければならなくなるため、過去の研究についても再考を迫られることになるとコメントしています。

なお、ESAでは暗黒エネルギーの解明を目指す宇宙望遠鏡「ユークリッド」の打ち上げを2022年に予定しており、宇宙が不均一な速度で膨張しているとした今回の研究成果についても検証できる可能性があるとしています。

2022年に打ち上げ予定の宇宙望遠鏡「ユークリッド」を描いた想像図(Credit: ESA/ATG medialab)

 

Image Credit: K. Migkas et al. 2020
Source: NASA / ESA
文/松村武宏

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