ESAとJAXAの地球観測衛星「EarthCARE」打ち上げ成功 気候変動の予測精度向上へ
【▲ 地球観測衛星「EarthCARE」の想像図(Credit: JAXA)】

こちらはESA(欧州宇宙機関)とJAXA(宇宙航空研究開発機構)が共同開発・運用する地球観測衛星「EarthCARE」です。日本では「はくりゅう(白龍)」の愛称で呼ばれています。

【▲ 地球観測衛星「EarthCARE」の想像図(Credit: JAXA)】
【▲ 地球観測衛星「EarthCARE」の想像図(Credit: JAXA)】

EarthCAREは2024年5月29日(日本時間・以下同様)、アメリカの民間宇宙企業SpaceX(スペースX)のロケット「Falcon 9(ファルコン9)」に搭載されて打ち上げられました。衛星には4つの異なる観測装置が搭載されていて、雲やエアロゾル(大気中のほこりやちりなどの微粒子)の全地球的な観測を行います。EarthCAREのミッションを通じて、雲やエアロゾルが気候変動に影響する仕組みを解明し、気候変動の予測精度を向上することが期待されています。

■打ち上げの様子

【▲ ヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられたFalcon 9(Credit: SpaceX)】
【▲ ヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられたFalcon 9(Credit: SpaceX)】

EarthCAREを搭載したFalcon 9は、2024年5月29日7時20分にアメリカ・カリフォルニア州のヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられました。JAXAによると、衛星は発射約10分後にFalcon 9から分離され、同日8時14分に南アフリカの地上局にて地球周回軌道へ投入されたことを示す衛星からのテレメトリを受信したということです。また、5月30日10時14分には後述する観測装置のひとつ「雲プロファイリングレーダ(CPR)」の主反射鏡が正常に展開されたことを確認したということです。

■EarthCAREとは

【▲ 地球観測衛星「EarthCARE」の実機(Credit: Airbus)】
【▲ 地球観測衛星「EarthCARE」の実機(Credit: Airbus)】

前述の通り、EarthCAREはESAとJAXAが共同開発・運用する地球観測衛星で、日本での愛称は「はくりゅう(白龍)」です。衛星はヨーロッパの民間企業Airbusにより製作されました。太陽光パネル等を展開した軌道上での大きさは3.5m×2.5m×17.2mです。高度約400km・軌道傾斜角97.05度の太陽同期準回帰軌道を周回します。

EarthCAREの観測目的は雲やエアロゾルの分布を全地球的に観測し、両者の相互作用を解明することです。観測データは雲とエアロゾルが気候変動に影響する仕組みを明らかにしたり、気候変動予測の精度を向上させたりすることに役立てられます。

■4つの観測機器を搭載

EarthCAREには「レーダ」「ライダ(Lidar、ライダー)」「イメージャ」「放射収支計」という観測方法が異なる4つの観測機器が搭載されています。観測は対象とする場所と時間がほぼ一致したデータを各センサーが同時に取得する「シナジー(同期)観測」という方法で行われます。

【▲ 雲プロファイリングレーダー(CPR)。アンテナは直径2.5mである。(Credit: JAXA)】
【▲ 雲プロファイリングレーダー(CPR)。アンテナは直径2.5mである。(Credit: JAXA)】

「雲プロファイリングレーダー(Cloud Profiling Radar、CPR)」はJAXAとNICT(情報通信研究機構)が共同で開発し、NEC(日本電気)が設計、製造を担当した観測機器です。衛星から地球にレーダーを送信することで、大気中の雲粒により散乱される電波を受信します。

CPRの観測では、台風のような分厚い雲の内部を捉えることが可能で、雲の鉛直方向(重力が働いている方向)の構造が調べられます。JAXAによると、CPRは衛星観測史上初めて地球全体の雲粒の上昇・下降速度を測定し、雲の中の対流の様子を明らかにするということです。つまり、雲が地球上のどのあたりにあるのかという分布だけでなく、雲内部の粒子の上下運動という動きまで捉えることができます。

JAXAによると、CPRに利用する大型ミリ波アンテナは衛星に搭載される観測センサーとして世界最大の直径2.5mもあるということです。

【▲ 各観測機器の観測方法をまとめた図。ATLIDのレーザー光やCPRのレーダーなどがわかりやすく表現されている。(Credit: Airbus)】
【▲ 各観測機器の観測方法をまとめた図。ATLIDのレーザー光やCPRのレーダーなどがわかりやすく表現されている。(Credit: Airbus)】

「大気ライダ(Atmospheric Lidar、ATLID)」はESAが開発を担当した観測機器で、CPRでは観測できない直径の小さいエアロゾルや薄い雲を調べます。ライダとは衛星からレーザー光を大気に照射することで観測を行う機器を指します。CPRとATLIDの観測データを組み合わせることで、大きさの異なる雲粒やエアロゾルがどの範囲にどのくらいの高度に広がっているかを計測することが可能です。

「多波長イメージャ(Multi-Spectral Imager、MSI)」「広域帯放射収支計(Broad-Band Radiometer、BBR)」はESAにより開発された観測機器です。MSIは雲やエアロゾルの水平方向の構造を明らかにし、BBRは太陽光の反射や地球からの熱放射のエネルギー量を測定します。

 

Source

  • SpaceX - ESA EARTHCARE MISSION
  • JAXA - 雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」衛星の打上げ結果
  • JAXA - 雲エアロゾル放射ミッション/雲プロファイリングレーダ「EarthCARE/CPR」の主反射鏡の展開結果
  • JAXA - サテナビ「EarthCARE/CPR」
  • JAXA - EarthCARE/CPR 概要説明書
  • Airbus - Heaven-sent EarthCARE to study clouds and climate

文/出口隼詩 編集/sorae編集部