【▲ 太陽探査機「ソーラー・オービター」の極端紫外線撮像装置(EUI)が捉えた水星の動き(動画)】
(Credit: ESA & NASA/Solar Orbiter/EUI Team)
こちらは、欧州宇宙機関(ESA)の太陽探査機「ソーラー・オービター(Solar Orbiter)」に搭載されている「極端紫外線撮像装置(EUI)」で2023年1月3日に取得したデータを使って作成された短い動画です。EUIが捉えた太陽大気を背景に、中央から右へと移動していく黒い影が写っているのがわかりますでしょうか。
影の正体は、太陽から平均約0.39天文単位(約5800万km)離れた軌道を公転している水星です。地球の公転軌道の内側にある水星や金星が太陽と地球の間を通過する時、地球では水星や金星の太陽面通過が観測されることがあります。この日は“人工惑星”であるソーラー・オービターと太陽の間を水星が通過したことで、ソーラー・オービターから水星の太陽面通過が観測できたというわけです。ソーラー・オービターから見た水星の太陽面通過はEUIだけでなく「偏光・日震撮像装置(PHI)」などでも記録されています。
太陽面通過は太陽の手前を水星や金星などが横切る場合を指す言葉ですが、ある天体の手前を別の天体が横切る現象全般はトランジット(transit)と呼ばれており、太陽系外惑星を探し出す有力な手段の一つとして活用されています。
先に掲載したPHIのアニメーション画像を見るとわかりやすいのですが、トランジットが起きる時、手前を横切る天体は奥の天体の一部を隠します。隠す天体が惑星、隠される天体が恒星だった場合、ごくわずかですが惑星に隠された分だけ星の明るさが暗くなりますし、惑星は恒星を一定の周期で公転しているので、トランジットは同じ周期で何度も繰り返されることになります。惑星によるトランジットの周期や恒星の光度曲線(時間の経過にあわせて変化する天体の光度を示した曲線)を高い精度で観測すると、惑星の公転周期、直径、大気の有無といった情報を間接的に得ることができるのです。
このような観測手法は「トランジット法」と呼ばれており、アメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙望遠鏡「ケプラー」(2018年運用終了)や系外惑星探査衛星「TESS」、ESAの宇宙望遠鏡「ケオプス」などでも利用されています。
【▲ 系外惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子を示した動画】
(Credit: ESO/L. Calçada)
Source
- Image Credit: ESA, NASA, Solar Orbiter/EUI Team, Solar Orbiter/PHI Team
- ESA - Mercury’s black disc helps sharpen Solar Orbiter’s view
文/sorae編集部