【▲ 小惑星「ディディモス」とその衛星「ディモルフォス」からなる二重小惑星(丸で囲まれた天体)。NASAの探査機「DART」の光学カメラ「DRACO」を使って2022年7月27日に撮影(Credit: NASA JPL DART Navigation Team)】

【▲ 小惑星「ディディモス」とその衛星「ディモルフォス」からなる二重小惑星(丸で囲まれた天体)。NASAの探査機「DART」の光学カメラ「DRACO」を使って2022年7月27日に撮影(Credit: NASA JPL DART Navigation Team)】

こちらの画像の丸で囲まれている天体は、小惑星「ディディモス」(65803 Didymos、直径780m)とその衛星「ディモルフォス」(Dimorphos、直径160m)からなる二重小惑星です。2021年11月に打ち上げられたアメリカ航空宇宙局(NASA)の探査機「DART」に搭載されている光学カメラ「DRACO」を使って、2022年7月27日に撮影されました。ディディモスは約2.1年周期で太陽を公転するアポロ群の小惑星で、ディモルフォスはその周りを11時間55分周期で公転しています。

DARTは「Double Asteroid Redirection Test」(二重小惑星方向転換試験)の略です。このミッションは史上初となる惑星防衛(※)の技術実証として、実際に探査機を小惑星に衝突させて軌道を変更することが試みられます。DARTは二重小惑星のうち衛星であるディモルフォスのほうに、米国東部夏時間2022年9月26日19時14分(日本時間9月27日8時14分)に衝突する予定です。

※…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組みのこと

2013年2月にロシア上空で爆発して1000名以上を負傷させた小惑星のように、地球への天体衝突は現実の脅威です。地球に接近する軌道を描く「地球接近天体」(NEO:Near Earth Object、地球接近小惑星)と呼ばれている小惑星のうち、特に衝突の危険性が高いものは「潜在的に危険な小惑星」(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)に分類されていて、将来の衝突リスクを評価するために追跡観測が行われています。

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ある小惑星が地球に衝突する確率が高いと判断された場合、事前に衝突体(インパクター)を体当たりさせて小惑星の軌道を変えることで、甚大な被害をもたらす小惑星の衝突を回避できるかもしれません。DARTは、この「キネティックインパクト」(kinetic impact)と呼ばれる手法を初めて実証するミッションです。

【▲ 小惑星ディディモス(右上)の衛星ディモルフォス(左)へ接近した探査機「DART」。右下に描かれているのは衝突前に分離される小型探査機「LICIACube」(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)】

【▲ 小惑星ディディモス(右上)の衛星ディモルフォス(左)へ接近した探査機「DART」。右下に描かれているのは衝突前に分離される小型探査機「LICIACube」(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)】


DARTの探査機本体のサイズは約1.2×1.3×1.3mで、長さ8.5m(展開時)の太陽電池アレイを2基備えています。探査機にはイタリア宇宙機関(ASI)の小型探査機「LICIACube」が搭載されていて、衝突の10日ほど前に分離された後、DART探査機の衝突やその噴出物などを撮影することも試みられます。

ミッションを主導するジョンズ・ホプキンス大学の応用物理学研究所(APL)によると、ディモルフォスの推定質量は50億kg(500万トン)、衝突時点でのDARTの質量は570kgと予想されています。探査機がほぼ正面から秒速6.1kmで衝突することで、衛星であるディモルフォスの公転周期は数分ほど短くなると考えられています。

APLによれば、ディディモスはPHAに分類されているものの、現時点ではその軌道が地球の公転軌道と交差することはないと予測されており、実際の脅威になることはないとされています。探査機が衝突するターゲットもディディモスそのものではなく衛星であるディモルフォスのほうが選ばれており、衝突後のディモルフォスの軌道はわずかに小さくなります。また、DARTが体当たりしても圧倒的に質量が大きなディモルフォスを破壊するには至らないとされているなど、ミッションは慎重に計画されています。

【▲ DARTのミッションを解説したイラスト。DARTが衝突することで、ディディモス(Didymos)を周回するディモルフォス(Dimorphos)の軌道が変化する(白→青)と予想されている(Credit:NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)】

【▲ DARTのミッションを解説したイラスト。DARTが衝突することで、ディディモス(Didymos)を周回するディモルフォス(Dimorphos)の軌道が変化する(白→青)と予想されている(Credit:NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)】

ディモルフォスに衝突してミッションを終えるDART探査機には、探査機を誘導する「目」の役割を果たすDRACOが唯一の観測装置として搭載されています。DRACOは冥王星およびエッジワース・カイパーベルト天体「アロコス」のフライバイ探査を行った探査機「ニュー・ホライズンズ」に搭載されているカメラ「LORRI」をベースに開発されました。

冒頭の画像が撮影されたのは衝突予定日の2か月前で、DART探査機はディディモスから約3200万km離れていました。この距離ではディディモスおよびディモルフォスからなる二重小惑星はまだ暗く、撮影できる確証はなかったようですが、DRACOを使って撮影された243枚の画像を組み合わせて処理したところディディモスの姿が現れ、探査機から見た位置を特定することができたといいます。DART探査機は7月27日に続き、8月12日・13日・22日にも同様の観測を行いました。

APLによると、9月7日以降のDART探査機は5時間ごとにディディモスを観測し、合計3回の軌道修正操作を行ってディモルフォスへの衝突コースを修正する段階に入っています。衝突の約24時間前となる9月25日には最後の軌道修正操作が行われ、ディモルフォスの位置を2kmの範囲内で特定できるようになるといいます。この後、DART探査機はディモルフォスへ向かって自律的に誘導され、衝突することになります。「衝突体を体当たりさせて小惑星の軌道をそらす」技術を実証するDARTミッション、その成否に注目です。

 

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文/松村武宏

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