S-520-31号機で打ち上げられた回転デトネーションエンジン(推力約500N)が、世界で初めて宇宙空間で稼働する瞬間を捉えた画像(Credit: Nagoya University, JAXA)

【▲ S-520-31号機で打ち上げられた回転デトネーションエンジン(推力約500N)が、世界で初めて宇宙空間で稼働する瞬間を捉えた画像(Credit: Nagoya University, JAXA)】

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2021年7月27日、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所において観測ロケット「S-520-31号機」の打ち上げを行いました。同日朝5時30分に打ち上げられたS-520-31号機は約4分後に最高高度235kmへ到達し、打ち上げから約8分後に内之浦の南東海上へ着水しています。

今回打ち上げられたS-520-31号機は「深宇宙探査用デトネーションエンジンシステム」の実証実験を目的としていました(デトネーションエンジンについては後述)。8月19日、JAXAはS-520-31号機に搭載されていた「回転デトネーションエンジン」(RDE:Rotating Detonation Engine)が稼働する様子を撮影した冒頭の写真を公開しました。

S-520-31号機には、回転デトネーションエンジンおよび「パルスデトネーションエンジン」(PDE:Pulse Detonation Engine)という2つのデトネーションエンジンから構成される「デトネーションエンジンシステム」が搭載されていました。打ち上げ後に第1段から分離されたデトネーションエンジンシステムは、宇宙空間において回転デトネーションエンジンを6秒間、パルスデトネーションエンジンを2秒間×3回、いずれも正常に作動させることに成功しています。

発表によると、宇宙空間におけるデトネーションエンジンの実証実験成功は世界初とされています。取得されたデータの一部は地上に伝送されましたが、冒頭の画像を含む大容量データは、大気圏再突入時の減速と海上での浮揚を可能とする展開型エアロシェルを備えた小型回収機「RATS」(※)を使って海上で回収されています。

※…Reentry and Recovery module with inflatable Aeroshell Technology for Sounding rocket experimentの略

打ち上げられたS-520-31号機(Credit: JAXA)

【▲ 打ち上げられたS-520-31号機(Credit: JAXA)】

■デトネーションエンジンとは

デトネーション(detonation)は日本語で爆轟(ばくごう)と言い、火炎の伝播速度が音速を超える爆発的な燃焼現象です。衝撃波と燃焼領域の相互作用によって維持されるデトネーションの伝播速度は秒速2~3kmにも達するといいます。

デトネーションエンジンはこの現象を応用して推進剤(燃料と酸化剤)を燃焼させるロケットエンジンで、従来のロケットエンジンと比べて構造が単純であり、理論上の熱効率が高いというメリットがあります。実用化されればエンジンの小型・軽量化や高性能化につながることから、各国でデトネーションエンジンの研究が進められています。

S-520-31号機に搭載されていたデトネーションエンジンシステムは、名古屋大学未来材料・システム研究所、名古屋大学大学院工学研究科、慶應義塾大学、室蘭工業大学の研究グループとJAXA宇宙科学研究所が共同で開発したものでした。

パルスデトネーションエンジン(左)と回転デトネーションエンジン(右)の仕組み。2021年3月に実施されたJAXA相模原キャンパスのオンライン特別公開で配信された「観測ロケットS 520 31号機の紹介 【オンライン特別公開 #3】」より(Credit: JAXA、日本語表記の追加など一部改変)

【▲ パルスデトネーションエンジン(左)と回転デトネーションエンジン(右)の仕組み。2021年3月に実施されたJAXA相模原キャンパスのオンライン特別公開で配信された「観測ロケットS 520 31号機の紹介 【オンライン特別公開 #3】」より(Credit: JAXA、日本語表記の追加など一部改変)】

デトネーションエンジンシステムに組み込まれていたパルスデトネーションエンジンと回転デトネーションエンジンの仕組みは、次の通りです。

パルスデトネーションエンジンの燃焼器は片側が閉じた筒状の構造をしていて、内部に満たされた推進剤に点火するとデトネーション波が生じて伝播し、推進剤が高速で燃焼されます。燃焼後のガスは不燃性のガスなどを用いて燃焼器から排出し、新たに充填した推進剤に再び点火することを繰り返します。デトネーション波を間欠的に生じさせることから「パルス」デトネーションエンジンと呼ばれています。

いっぽう、回転デトネーションエンジンの燃焼器は片側が閉じた二重の円筒構造をしています。デトネーション波は外側と内側の筒の間をくるくると回転するように連続的に伝播し、推進剤の燃焼によって生じたガスは円筒の軸方向に噴出していきます。パルスデトネーションエンジンとは違ってデトネーション波は一度発生させれば良く、推力を連続的に得られるのが回転デトネーションエンジンの特徴です。

S-520-31号機に搭載されたデトネーションエンジンシステム。右端に見えているのが回転デトネーションエンジンのノズル部(Credit: 名古屋大学)

【▲ S-520-31号機に搭載されたデトネーションエンジンシステム。右端に見えているのが回転デトネーションエンジンのノズル部(Credit: 名古屋大学)】

今回のデトネーションエンジンシステムによる実証実験成功について、名古屋大学未来材料・システム研究所は、既存のロケットエンジンが軽量・高性能化するデトネーションエンジンによって航空宇宙機のエンジンやシステムに変革がもたらされるきっかけとなるものであり、ロケットに搭載されるエンジンや深宇宙探査機のキックモーター(軌道投入用の推進装置)としてのデトネーションエンジン実用化に大きく近付くことになったとしています。

ロケットや宇宙機のエンジンが小型軽量化・高性能化されれば、より多くの観測機器やペイロード(搭載物)を搭載したり、今までは到達するのが難しかった天体を目指したりすることが可能になります。デトネーションエンジンは、宇宙における人類の活動を拡大していく上で欠かせないシステムになるかもしれません。

 

関連:JAXA、観測ロケット「S-310-45号機」の打ち上げ実験を成功

Image Credit: JAXA
Source: JAXA/ISAS / 名古屋大学未来材料・システム研究所 / JAXA相模原キャンパスYouTubeチャンネル
文/松村武宏

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