
地球の表面は活発に更新されるため、多くの古いクレーターが消えてしまっていると考えられています。誕生から約10億年間の地球には、かなり多くの天体衝突があったのではないかと推定されていますが、その直接的な証拠はこれまで見つかっていませんでした。
カーティン大学のChristopher L. Kirkland氏などの研究チームは、年代が古いことで知られている西オーストラリア州のピルバラ地域を調査した結果、約34億7000万年前(※1)と、知られている中で地球最古のクレーターを発見したことを報告しました。これは太古代の地球のクレーターとしては初めての発見であり、過去の記録を10億年以上遡るものです。
誕生直後の地球で起きた大規模で激しい天体衝突(※2)は、地球の歴史や生命の起源とも間接的に関わっていると考えられているため、この発見は重要です。
※1…34億6920万年+180万年/-120万年。
※2…ここでは、10km/s以上の速度で衝突する直径10km以上の天体を指します。

地球ではクレーターが残りにくい
天体の表面に小さな天体が高速で衝突すると、衝突痕であるクレーターが生じます。クレーターがいつまで残るのかはその天体の環境次第であり、例えば月には、数十億年前のクレーターですら大量に残されています。月には大気も地震もほとんどないため、大きなクレーターは他のクレーターによって上書きされる以外のプロセスで消去されることがないためです。
一方、地球はプレートテクトニクスによる地殻変動や、風雨による浸食活動などによって、表面が活発に更新されています。このため、月では直径1km以上のクレーターが約130万個あると推定されているのに対し、発見された地球のクレーターは大きさを問わずに数えても200個前後と、大きな差がついています。視覚的にはっきりしないクレーターも珍しくなく、例えば白亜紀末の大量絶滅の原因と考えられている天体衝突の跡「チクシュルーブ・クレーター」は、直径約200kmという大きさがありながら、20世紀後半に地質調査が行われるまで、その存在を知ることはできませんでした。
見つかっているクレーターのほとんどは、古くても数億年前に形成されたものであり、これより古くなるとかなり珍しくなります。これまでの研究で最古とされていたのは、オーストラリア大陸の西オーストラリア州で見つかった「ヤラババ・クレーター」であり、22億2900万年前に形成されたと推定されています。そしてヤラババ・クレーター自体の発見も2020年と、かなり最近です。
しかし、研究者が探しているのはさらに古いもの、具体的には地球が誕生した約46億年前から、およそ10億年の期間に生じたクレーターです。月の表面にあるクレーターの年代と大きさを考えると、この10億年間は地球でもかなり大きな天体衝突が頻発していたと推定されています。
特に、40億3100万年前から始まる太古代ならば、クレーターが見つかる可能性があります。太古代に形成されたクラトン(安定陸塊)は、地表部でもいくつか見つかっており、ある程度の広さを持つことから、地表の浸食作用でも完全には消去されていないクレーターが残されている可能性があるためです。
科学者がこの時代の天体衝突に着目するのは、地球の進化や生命の繁栄の歴史に関わっている可能性があるからです。大規模な天体衝突によって発生する膨大な熱は、地殻と上部マントルを温めるため、プレートテクトニクスの原動力になったと考えられます。また、もし衝突現場に海があれば、破砕された岩石に水が入り込むことによって化学反応が発生し、様々な物質を海の中に溶かし出します。つまりこの時代の天体衝突は、現在でも続くプレートテクトニクスの始動に関与しただけでなく、海に溶けた物質を利用して生きる初期の生命の繁栄に影響を与えた可能性もあるのです。
34億7000万年前の天体衝突の痕跡を発見
カーティン大学のChristopher L. Kirkland氏などの研究チームは、オーストラリア、西オーストラリア州のピルバラ地域の地質調査を行いました。ピルバラ地域には「ピルバラクラトン」と呼ばれる、年代の古さと大きさを兼ね備えたクラトンが存在することで知られています。

Kirkland氏らは、ピルバラ地域の街マーブルバー(Marble Bar)の西約40kmに位置する「ノースポール・ドーム(North Pole Dome)」にて、円錐の形状に沿って無数の溝が刻まれた、非常に特徴的な岩石を発見しました。この模様は「シャッターコーン」と呼ばれていますが、直訳すれば “破砕円錐” となる通り、岩石が非常に強い圧力に晒されたことを示す物証です。シャッターコーンを作り出すほどの大規模な高圧の発生源は天体衝突か地下核実験しかあり得ないため、自ずからその正体は絞られることになります。
また、シャッターコーンが刻まれているノースポール・ドームの岩石は、全体の岩石組織の構造も非常に複雑という特徴を持ちます。この複雑さは、天体衝突による熱があまりにも強かったため、岩石が融けただけでなく化学成分の変化をもたらした、と考えると説明がつきます。これらの証拠を元に考えると、約34億7000万年前に落下した、極めて規模の大きい天体衝突の痕跡がこの地に残されていることを示しています。これはヤラババ・クレーターより10億年以上も古く、知られている中で地球最古のクレーターです。また、太古代で発見された初めてのクレーターでもあります。
驚くべきはその規模です。シャッターコーンが見つかった状況から、ノースポール・ドームの正体は、クレーターの中心部にできた丘(中央丘)の上に、さらに堆積物が積もったものである可能性があるとKirkland氏らは考えています。これは、ノースポール・ドームそれ自体はクレーターの全体ではないことを意味していますが、クレーターの一部でしかないノースポール・ドーム自体だけでも、直径は40~45kmもあります。Kirkland氏らは、今回発見された衝突クレーターは、少なくとも直径100kmではないかと推定しています。
太古の地球の謎の解明は始まったばかり
今回の発見は、あくまでノースポール・ドームの一部の岩石を元に推定した結果にはなるものの、今のところ大きな矛盾なく説明可能な点で興味深い発見です。ノースポール・ドームはあまりにも巨大ですが、複数の地点で岩石を採集・分析すれば、この隠された巨大クレーターの正確な規模がよりはっきりするでしょう。ピルバラ地域は冬でも最高気温が30℃を超えることが珍しくないですが、研究チームは気温が許せば、2025年5月にこの地の調査を再開する予定です。
また、これはあくまで予備的な結果ですが、ピルバラ地域には同じ時代の別の天体衝突の痕跡が残されている可能性もあります。今回の研究より前、同じ地点の地層からは球状の粒が含まれる岩石が見つかっています。これは、天体衝突の熱で溶かされた岩石のしぶきであると解釈することができます。
この球状組織の年代は約34億6000万年前と、今回見つかったシャッターコーンと約1000万年しか時代差がありません。このため、実際には異なる時代の2つのイベントではなく、同じイベントの異なる物証を見ている可能性もあります。ただし、球状組織の物証は、今回より遠方の天体衝突を示唆するため、ほぼ同じ年代に起きた、別の天体衝突の証拠であるかもしれません。
月に残るクレーターは、太古代の大規模かつ高頻度の天体衝突を示しています。今回は少なくとも1回、もしかすると2回の大規模な天体衝突の痕跡を見つけたわけであり、月と同様に地球でもかなり激しい天体衝突が起きていたことを示しているかもしれません。
文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- Christopher L. Kirkland, et al. “A Paleoarchaean impact crater in the Pilbara Craton, Western Australia”.(Nature Communications)
- Sam Jeremic & Crystal Fairbairn. “World’s oldest impact crater found, rewriting Earth’s ancient history”.(Curtin University)