こちらは土星の衛星ミマスです。2010年2月13日に土星探査機「Cassini(カッシーニ)」の狭角カメラで撮影された合計6枚の画像を使って作成されました。中央右にはミマスの直径(396km)の3分の1に達する巨大なハーシェル・クレーター(Herschel、直径約139km)が写っています。
巨大なクレーターが印象的なミマスの姿は、映画「スター・ウォーズ」シリーズに登場する宇宙要塞「デス・スター」を彷彿とさせます。カッシーニの画像を公開したアメリカ航空宇宙局(NASA)も解説文でデス・スターに触れているほどです。
ミマスは同じ土星の衛星エンケラドゥスや木星の衛星エウロパなどと並び、氷の外殻の下に内部海が存在するかもしれないと考えられている太陽系の天体の一つです。表面が若くなめらかでプルーム(水柱、間欠泉)の噴出も確認されているエンケラドゥスとは違い、大小さまざまなクレーターに覆われている様子からは意外とも思える予想ですが、その理由はミマスの内部海が形成され始めた時期に関係しているのかもしれません。
パリ天文台のValéry Laineyさんを筆頭とする研究チームは、ミマスの公転軌道の変化を説明できるのは内部海が存在すると仮定した場合だけであり、内部海が出現したのは今から2500万年前以降だとする研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文はNatureに掲載されています。
研究チームが特に近点移動(※公転軌道の長軸の向きが回転する現象)に焦点を当てたミマスの軌道の変化をカッシーニの観測データを利用して分析した結果、変化を説明できるのは氷の外殻の下に全球規模の内部海が存在する場合だけだと結論付けられました。内部海を覆う外殻の厚さは20~30kmと推定されています。
研究チームのシミュレーションによると、ミマスの内部海は前述の通り今から2500万年前以降、場合によってはわずか200~300万年前に出現(※土星との潮汐相互作用による散逸量に左右される)して数百万年間で急速に成長し、現在も進化の途上にあるとみられています。氷の外殻と内部海の境界が深さ30km以内に達したのは200~300万年前以降のことであり、内部の活動の影響が表面に現れるには期間が短すぎると研究チームは指摘しています。
これまでの研究ではカッシーニによる秤動などの観測データをもとに、ミマスの内部には岩石でできた細長いコア(中心核)もしくは内部海が存在するのではないかと予想されていましたが、今回の研究では後者の可能性が支持された形です。また、内部海が存在するとしたらハーシェル・クレーターが形成された後に出現した若い海のはずだとする2022年12月発表の研究成果とも矛盾しません。
関連記事:「ミマス」内部の海は"若い"? 現在進行形で拡大している可能性が示される(2023年2月12日)
今回の研究結果が正しい場合、ミマスのように生命とは無縁に思える天体にも隠された海が存在する可能性が改めて示されただけでなく、太陽系初期に多くの天体で起きていた可能性がある水と岩石の相互作用を研究できる貴重な機会がミマスで得られる可能性も示されたことになります。天文学的なタイムスケールでは非常に若いと言える誕生したばかりの内部海が本当にミマスに存在するとしたら、生命の誕生を理解する上で重要な意味を持つことになるかもしれません。
Source
- Observatoire de Paris - Presence of a "young" ocean under the Mimas ice sheet
- Queen Mary University of London - Mimas' surprise: tiny moon holds young ocean beneath icy shell
- MEDIA INAF - Mimas cela un inatteso oceano d’acqua liquida
- Lainey et al. - A recently formed ocean inside Saturn’s moon Mimas (Nature)
文/sorae編集部