超新星爆発やクエーサーをはじめ、宇宙には高エネルギーな天文現象が数多くあります。このような天文現象を一度に多数観測することも観測能力の向上とともに容易になってきましたが、観測される数が増えたことによって、従来の分類には当てはまらない天文現象が多数見つかるという新たな謎も増えてきました。これらの天文現象に関する理解は今もなお発展途上であると言えます。

【▲ 図1: AT 2021lwxが観測された前後の天文画像。AT 2021lwxが現れた場所に (左側) 、発生前は何も写っていないように見える (中央および右側) 。 (Image Credit: Subrayan, et.al.) 】
【▲ 図1: AT 2021lwxが観測された前後の天文画像。AT 2021lwxが現れた場所に (左側) 、発生前は何も写っていないように見える (中央および右側) 。(Credit: Subrayan, et.al.)】

こぎつね座に現れた天文現象「AT 2021lwx」も、そんな謎多き天体の1つです。AT 2021lwxという名称は突発天体に付けられるカタログ名であり(ATは突発天体を意味するAstronomical Transientの略)、他にも小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)による「ATLAS20bkdj」、ツビッキー掃天観測 (ZTF) による「ZTF20abrbeie」、パンスターズ (Pan-STARRS) による「PS22iin」といった別名があります。特にZTFによるカタログ名の末尾は “バービー(Barbie)” に似ていることから、AT 2021lwxには “怖いバービー(Scary Barbie)” という通称が付けられています。

AT 2021lwxはATLASによって2020年11月10日に初めて観測されましたが、その後3年が経っても明るく輝いています。通常、超新星が明るく輝く期間は長くても数か月であることを考えると、長期間に渡るAT 2021lwxは注目すべき現象です。

また、通常の超新星であれば、爆発した星が属していた銀河なども観測されるのが普通です。しかしAT 2021lwxの場合、その位置に天体が観測された記録はありません。つまりAT 2021lwxは、何もない所に突然現れ、長期間に渡って大量のエネルギーを放出しているように見える天体、ということになります。

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AT 2021lwxの見た目の明るさと、地球から約80億光年という距離をもとに計算すると、AT 2021lwxのピーク時の明るさは7×10の38乗W、エネルギーの総放出量が1.5×10の46乗Jであると推定されます。ピーク時の明るさは太陽の約2兆倍であり、典型的なクエーサーに匹敵しますし、エネルギーの総放出量は典型的な超新星爆発の100倍に匹敵します。

ピーク時の明るさと総エネルギー、そして過去その位置に天体が見つかっていないという点で、AT 2021lwxは非常に謎の多い天体です。AT 2021lwxの明るさやエネルギーの値は、クエーサー以外の天体では観測史上最大規模であり、Wiseman氏らの研究チームはこれを “宇宙最大” の爆発であると表現しています。

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【▲ 図2: ブラックホールに物質が降着している様子の想像図。AT 2021lwxもこのような天体であると想像される。 (Image Credit: John A. Paice) 】
【▲ 図2: ブラックホールに物質が降着している様子の想像図。AT 2021lwxもこのような天体であると想像される。(Credit: John A. Paice)】

パデュー大学のBhagya M. Subrayan氏らの研究チーム、およびサウサンプトン大学のP. Wiseman氏らの研究チームは、それぞれ独立してAT 2021lwxの研究を行いました。

AT 2021lwxの正体について2つの研究チームの見解は一致しており、ブラックホールの一時的な活動であると考えられています。ブラックホールそのものは電磁波を何も放射しないため直接観測できませんが、ブラックホールの周辺に物質が供給されると、強い重力によって激しくかき回されて高温に加熱された物質から、X線から電波まで様々な波長の電磁波としてエネルギーが放出されます。これを遠く離れた私たちが見れば、非常に大規模なエネルギー放出現象が突然現れたように見えるでしょう。

ただし、両チームの結論は細かい点で異なります。Subrayan氏らの研究チームは、ブラックホールの質量を太陽の1億7000万倍、供給された物質は太陽の約14.28倍の質量を持つ恒星だと推定しました。これに対してWiseman氏らの研究チームは、ブラックホールの質量は太陽の1億倍から10億倍であり、供給された物質も恒星のような一塊の物体ではなく、水素や塵を含むガスのような変形しやすい物体だと推定しました。

Subrayan氏らよりも後に論文が公開されたWiseman氏らによれば、X線以外の波長での観測結果が塵の存在を示唆していることや、ガス状の物質が降着円盤を構築しているモデルの方が、潮汐力によって破壊された恒星のモデルよりも観測結果と適合していることを根拠に、ブラックホールにガスが降着した説を提唱しています。

ブラックホールの質量や供給された物質の正体については、現在の観測データで結論を出すのには不十分であり、より多くの継続観測が求められます。AT 2021lwxの正体に迫るにはもう少し時間がかかりそうです。

 

Source

  • Bhagya M. Subrayan, et.al. “Scary Barbie: An Extremely Energetic, Long-duration Tidal Disruption Event Candidate without a Detected Host Galaxy at z = 0.995”. (The Astrophysical Journal Letters)
  • P. Wiseman, et.al. “Multiwavelength observations of the extraordinary accretion event AT2021lwx”. (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)
  • Gurjeet Kahlon, Robert Massey & Steve Williams. “Astronomers reveal the largest cosmic explosion ever seen”. (The Royal Astronomical Society)

文/彩恵りり

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