【▲ ハッブル宇宙望遠鏡の掃天観測用高性能カメラ(ACS)で観測された「ブーメラン星雲」(Credit: NASA, ESA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: J. Biretta (STScI))】

こちらは「ケンタウルス座」の方向約5000光年先にある原始惑星状星雲「ブーメラン星雲(Boomerang Nebula)」です。1980年に地上の望遠鏡を使ってこの星雲が観測された当時、ブーメランのように湾曲した構造をしているように見えたことからこの名が付けられました。

冒頭の画像は、命名から25年後に「ハッブル」宇宙望遠鏡の「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」を使って観測されたブーメラン星雲です。「ブーメラン」というよりも、双方向に広がるローブ(lobe、葉状の構造)を持った「蝶ネクタイ」のような姿をしていることがわかります。ハッブル宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、ローブの長さは片側だけでも約1光年で、太陽1.5個分に匹敵する質量の物質が1500年ほどかけて放出されたことで形成されたと考えられています。ブーメラン星雲全体の最大幅は、太陽から最寄りの恒星であるアルファ・ケンタウリまでの距離(約4.37光年)の半分ほどに達するといいます。

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太陽のように超新星爆発を起こさない比較的軽い恒星(質量は太陽の8倍以下)が主系列星から赤色巨星に進化すると、外層から周囲へとガスや塵が放出されるようになります。やがて、ガスを失った星が赤色巨星から白色矮星へと移り変わる段階になると、かつては赤色巨星だった中心に位置する星から放射された紫外線によって周囲のガスが電離して光を放ち、惑星状星雲として観測されるようになります。ブーメラン星雲などの原始惑星状星雲は惑星状星雲になる前の段階の天体で、まだ電離していないガスが中心星の放つ光によって照らし出されています。

ちなみに、冒頭の画像ではブーメラン星雲がカラフルな色合いをしていますが、人の目で見た時の実際の色とは異なります。冒頭の画像の作成にはブーメラン星雲から届いた偏光を測定するために取得された3つのデータも使われていて、色は偏光角の違いに応じて着色されています(0度:ピンク、60度:黄、120度:シアン)。様々な偏光角で取得された画像を組み合わせることで、天文学者は星雲における光の散乱や、光を散乱させているダスト粒子の特性を研究することができるということです。

冒頭の画像は2005年9月13日にSTScI、アメリカ航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)から公開されていたもので、NASAのハッブル宇宙望遠鏡Twitter公式アカウントが2023年3月14日付で改めて紹介しています。

 

Source

  • Image Credit: NASA, ESA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: J. Biretta (STScI)
  • STScI - Scattered Light from the Boomerang Nebula
  • ESA/Hubble - Hubble catches scattered light from the Boomerang Nebula

文/sorae編集部

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