カリフォルニア工科大学の掃天観測施設「ZTF」で撮影された「アンドロメダ銀河」。スターリンク衛星の光跡が重なっている(Credit: Caltech Optical Observatories/IPAC )

【▲ カリフォルニア工科大学の掃天観測施設「ZTF」で撮影された「アンドロメダ銀河」。スターリンク衛星の光跡が重なっている(Credit: Caltech Optical Observatories/IPAC )】

こちらはアメリカのパロマー天文台にあるカリフォルニア工科大学(Caltech)の掃天観測施設「ZTF(Zwicky Transient Facility)」で撮影された「アンドロメダ銀河(M31)」です。口径48インチ(約122cm)のサミュエル・オスキン望遠鏡と16基の大型CCDセンサーで構成されるZTFは、超新星などの突発的な現象や未発見の小惑星を検出するための掃天観測(空の一定の範囲を対象に行う網羅的な観測)を行っています。

現地時間2021年5月19日に撮影されたというこの画像には、上下に走る1本の光跡が写り込んでいるのがわかります。これは、衛星コンステレーションを用いた衛星ブロードバンドサービス「Starlink(スターリンク)」を提供するスペースXが運用する約1800機(執筆時点)の人工衛星、その1つが通過したことで生じた光跡だといいます。

■日の出前や日の入り後には衛星の光跡が写り込みやすい

近年では小型衛星群を用いた様々な衛星コンステレーションの構築が進められており、高速・低遅延のインターネットサービス提供を目指す「OneWeb(ワンウェブ)」もすでに400機近い衛星を運用しています。今回、ワルシャワ大学のPrzemek Mrózさんを筆頭とする研究グループは、衛星コンステレーションが掃天観測に及ぼす「光害(ひかりがい)」の影響をスターリンクを例に評価し、その結果を発表しました。

研究グループによると、2019年11月~2021年9月にかけてZTFで撮影された画像には、スターリンク衛星が原因と考えられる光跡が全部で5301本写り込んでいたといいます。特に影響が顕著だったのは、日の出前や日の入り後にあたる薄明の時間帯(太陽の高度が水平線下18度以上)でした。この時間帯に上空を通過する人工衛星や国際宇宙ステーション(ISS)は地球の影に入らないため、反射した太陽光が地上に届きやすくなります。

発表によると、薄明にZTFで撮影された画像のうち、光跡の影響を受けたものは2019年後半には0.5パーセント未満だったものの、衛星数の増加にともなって2021年8月には18パーセントが影響を受けていたと研究グループは指摘しています。スターリンク衛星の数は今後も増え続ける予定で、スペースXが2027年までに達成することを目標に掲げている1万機に到達すれば、薄明に撮影されたすべての画像に最低1つの光跡が写り込む可能性があるといいます。

【▲ ファルコン9ロケットから分離される53機のスターリンク衛星(スペースXのツイートを引用)】

幸いなことに、現時点ではZTFの科学観測に重大な影響は及んでいないようです。研究に参加したカリフォルニア工科大学のTom Princeさんによると、ZTFで撮影された1枚の画像を構成するピクセル(画素)のうち、スターリンク衛星による1本の光跡の影響を受けるのは0.1パーセント未満。光跡に隠された突発天体や小惑星を見逃す可能性はわずかにあるものの、曇り空などの天候に比べれば影響は小さいといいます。Princeさんは、衛星の位置を予測して観測スケジュールを調整したり、光跡による悪影響を隠すか低減させたりするソフトウェアを開発することもできると語ります。

また、スターリンク衛星はアンテナが地上へ太陽光を反射してしまうのを防ぐためのサンバイザーを2020年から装備しています。研究グループによると、バイザーの搭載によってスターリンク衛星の明るさは約5分の1に低減され、見かけの等級は6.8等のレベルまで暗くなったことがZTFの観測によって判明したといいます(肉眼で見える最も暗い星は6等級とされています)。

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■衛星の明るさや飛行高度次第では重大な影響が及ぶ可能性も

ただ、今回の研究はあくまでも「ZTFに対するスターリンク衛星の影響」を評価したものであるため、別の観測施設や衛星コンステレーションの場合は状況が異なる可能性があります。スターリンク衛星が飛行する高度は約550kmと比較的低いため、衛星が地球の影に入る薄明以外の時間帯に撮影された画像にまで影響を及ぼすことはないことが予想されるとMrózさんは語ります。そのいっぽうで、別の衛星コンステレーションがより高い高度で構築されれば薄明以外の時間帯にも影響が及ぶ可能性があるともMrózさんは言及しています。

衛星のさらなる明るさの低減も求められるかもしれません。米国科学財団の国立光学・赤外天文学研究所(NSF/NOIRLab)とアメリカ天文学会(AAS)が2020年に開催したワークショップ「SATCON1(Satellite Constellations 1)」では、天文学者や政策立案者などの専門家をはじめスペースXなど民間企業からの出席も含めて250名以上のメンバーが参加し、衛星コンステレーションが観測に及ぼす影響が評価されました。研究グループによると、同ワークショップでは地球低軌道を周回するすべての人工衛星の明るさを「7等級以下」にすることが求められたものの、バイザーを装備したスターリンク衛星の明るさはこの基準にあと一歩及びません。

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また、2023年以降の観測開始が予定されているチリの「ヴェラ・ルービン天文台」ではZTFよりも感度の高い装置を用いた掃天観測が行われるため、光跡の影響をより強く受ける可能性があるといいます。今後は明るさの低減飛行高度の制限正確な軌道情報の提供といった対策が、衛星コンステレーションに限らず地球低軌道を周回するすべての人工衛星に対して求められるようになるかもしれません。

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Image Credit: Caltech Optical Observatories/IPAC
Source: カリフォルニア工科大学
文/松村武宏