「奇妙な特徴を持つ褐色矮星」の正体が判明
褐色矮星(brown dwarf)のイラスト図。(Image Credit:IPAC/Caltech)
【▲ (brown dwarf)のイラスト図(Credit: IPAC/Caltech)】

NASAは8月31日、アメリカ、カリフォルニア州カルテックの天体物理学者デイビー・カークパトリックさん率いる研究チームが、奇妙な特徴を持つWISEA J153429.75-104303.3」こと「アクシデント(The Accident)」の奇妙な特徴の理由を解明したと発表しました。

【▲ を解りやすく解説したイラスト。左から、などの巨大、褐色矮星、恒星になります(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

褐色矮星(brown dwarfなどの巨大と恒星との中間的な質量を持つ天体です。その質量はの質量の13倍から80倍ほどになります。質量が足りないために、水素の核融合反応は起こらず、時間が経つにしたがって、冷えて暗くなっていきます。

このような褐色矮星、アクシデントは市民科学者ダン・カゼルデンさんによってその名の通りに偶然に発見されました。

ダンさんは、独自に開発したオンラインプログラム(an online program)を使って、褐色矮星を探すために、NASAの地球近傍天体広域赤外線探査衛星NEOWISE(Near-Earth Object Wide-Field Infrared Survey Explorer)のデータを解析していました。このとき、ダンさんは、褐色矮星の候補の1つを見ていたのですが、ノーマークだったさらに暗い天体がササッとスクリーンを横切っていったのに偶然にも気がつきました。この天体がアクシデントでした。

では、なぜ、アクシデントはノーマークだったのでしょうか?

実はアクシデントはこれまで天の川銀河内で見つかっている2000個を超える褐色矮星の特徴とは異なる奇妙な特徴を持っていたためでした。そのため普通の褐色矮星の特徴を前提に開発されたダンさんのプログラムの目を見事にかいくぐっていたというわけです。

その奇妙な特徴とは、褐色矮星は歳を取ると冷えて暗くなっていくのですが、アクシデントは、ある波長で観測すると明るく若く見えるのに、他の波長で観測すると暗く老いて見えるのです。

最初、研究チームは、アクシデントがこのように暗く見えるのは、アクシデントが地球から予測されているよりも遠くにあるためではないかと考え、宇宙望遠鏡やスピッツァー宇宙望遠鏡の観測データを使って、アクシデントまでの距離を正確に測定しましたが、この可能性は否定されました。しかし、その過程で、研究チームはアクシデントがなんと時速約80万kmという恐るべきスピードで移動していることに気がつきました。

研究チームによれば、アクシデントは、重い天体に出会う度に、その重力によって加速されながら、長い間、天の川銀河のなかを移動し続けているのだろうといいます。

結局、ケック天文台による追加的な観測などさまざまな証拠から、アクシデントは、歳より暗く見えているのではなく、歳よりも明るく見えていることが解りました。

炭素は、恒星の内部でつくられ、爆発によって銀河全体に拡散されます。そのため、銀河が誕生したときには、銀河には炭素はほとんど存在していませんでした。つまり、天の川銀河が誕生してからまだ炭素がほとんど存在していない時期に誕生したアクシデントには炭素と水素からなるメタンがほとんど含まれておらず、メタンによって吸収されるはずの波長の光が歳不相応に明るく観測されていたというわけです。ちなみに褐色矮星には広くメタンが含まれています。

研究チームの推定によれば、アクシデントはおそらく100億歳から130億歳ほどになるといいます。これはこれまで知られている褐色矮星の一般的な年齢の少なくても2倍ほどにもなります。このように古い褐色矮星は非常に珍しいそうです。

 

Image Credit: IPAC/Caltech/NASA/JPL-Caltech
Source: NASA論文
文/飯銅重幸

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