土星最大の湖「クラーケン海」を描いた想像図(Credit: NASA/John Glenn Research Center)

土星最大の湖「クラーケン海」を描いた想像図(Credit: NASA/John Glenn Research Center)

土星最大の衛星タイタンは、太陽系において地球以外では唯一、表面に安定した状態で液体が存在することが知られている天体です。コーネル大学のValerio Poggiali氏らが発表した研究成果によると、タイタン最大の湖であるクラーケン海(Kraken Mare)の深さは100mを超えると推定されており、中央付近の深さは300mに達する可能性もあるようです。

■カッシーニが残した観測データから入江の深さと組成を分析

太陽のハビタブルゾーンを公転する地球の表面には液体の水が存在しています。いっぽうタイタンは地球よりも濃密な大気(地表の気圧は約1.5気圧、大気の密度は地球の約4倍)を持つものの、地表は摂氏マイナス180度という低温の世界。タイタンの空からは水ではなくメタンの雨が降り、湖はメタンやエタンで満たされていると考えられています。

タイタンの地表には極域を中心にが点在しており、その多くは深さや組成が調べられています。たとえば北極に近いリゲイア海(Ligeia Mare)の深さは約200mで、エタンよりもメタンのほうが多いとみられています。しかしPoggiali氏によると、タイタンの地表に存在する液体の約8割が集まっているクラーケン海の深さや組成についてはまだ知られていなかったといいます。

関連:土星の衛星タイタンの濃密な大気の下に広がる地表。特殊フィルターで撮影

土星探査機カッシーニから特別なフィルターを使用して撮影されたタイタン。黒っぽいしみのような部分は北半球にある湖(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

土星探査機カッシーニから特別なフィルターを使用して撮影されたタイタン。黒っぽいしみのような部分は北半球にある湖(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

今回、研究グループは土星探査機「カッシーニ」がタイタンへ接近した際に実施したレーダーによる観測データを分析し、クラーケン海とその北端に位置するマレー入江(Moray Sinus)の深さや組成を調べました。レーダー波が水面と湖底でそれぞれ反射されて戻ってくるまでの時間差からは水深を、液体を通過するあいだに吸収されたエネルギーの量からは組成を知ることができるといいます。

分析の結果、マレー入江の深さは約85mで、組成はメタンが70パーセント、窒素が16パーセント、エタンが14パーセントであることが明らかになったといいます。クラーケン海については深すぎるかもしくはレーダー波が吸収されすぎたかの理由で湖底からの反射波が検出されなかったといいますが、もしも組成がマレー入江と同じだった場合、冒頭でも触れたようにその深さは100mを超えるとみられています。

■予想と異なりクラーケン海もメタンが多い?

クラーケン海を探査する潜水型無人探査機のコンセプト「Titan Submarine」(Credit: NASA, Steven Oleson)

クラーケン海を探査する潜水型無人探査機のコンセプト「Titan Submarine」(Credit: NASA, Steven Oleson)

また、極域に降ったメタンが注ぎ込む高緯度のリゲイア海とは違い、より緯度が低いクラーケン海ではエタンの割合が多いのではないかと考えられてきたものの、マレー入江の組成はリゲイア海と同様にクラーケン海もメタンが多い可能性を示唆しています。

Poggiali氏によると、タイタンに降り注ぐ太陽光は地球の100分の1の強さしかないものの、紫外線によって大気中のメタンが分解されてエタンが生成され続けることで、おおむね1000万年以上の期間があれば地表のメタンが枯渇するはずだといいます。Poggiali氏は、液体メタンの起源はタイタンの謎の一つであり、メタンの循環を理解する上でクラーケン海やマレー入江の深さおよび組成を知ることは重要だと指摘します。

タイタンの湖が直接調べられたことはまだありませんが、過去にはアメリカ航空宇宙局(NASA)の「NIAC(NASA Innovative Advanced Concepts、革新的先進コンセプト)」プログラムにおいて、クラーケン海の探査を想定した「Titan Submarine(タイタンサブマリン)」に研究資金が提供されたことがあります。遠い将来に実現するかもしれない潜水型の無人探査機によるクラーケン海の探査に、Poggiali氏は期待を寄せています。

なお、こちらは水中ではなく空中ですが、NASAではジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所が主導するドローン型無人探査機「ドラゴンフライ」によるタイタン探査ミッションの準備を進めており、2027年の打ち上げが予定されています。

タイタンに着陸したドローン型探査機「ドラゴンフライ」を描いた想像図(Credit: NASA/Johns Hopkins APL)

タイタンに着陸したドローン型探査機「ドラゴンフライ」を描いた想像図(Credit: NASA/Johns Hopkins APL)

 

関連:タイタンの空を飛ぶドローン型探査機「ドラゴンフライ」打ち上げ1年延期

Image Credit: NASA/John Glenn Research Center
Source: コーネル大学 / Titan Submarine (NIAC)
文/松村武宏

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