アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星ヘリコプター「Ingenuity」(インジェニュイティ、右下)(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU)

【▲アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星ヘリコプター「Ingenuity」(インジェニュイティ、右下)(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU)】

こちらは火星の表面に降り立ったアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」です。ゴロゴロとした岩が転がるいかにも険しそうな地形を前に翼を休めるIngenuityの姿は、知恵を絞って困難な環境に挑む宇宙探査ミッションを象徴しているかのようです。

画像はIngenuityが7回目の飛行を行ってから1週間後の2021年6月15日に、NASAの火星探査車「Perseverance(パーセベランス、パーシビアランス)」に搭載されているズーム対応カメラ「Mastcam-Z」を使って撮影されました。

重量1.8kg、ローター(二重反転式)の幅は1.2mという小さな電動無人ヘリコプターであるIngenuityは、Perseveranceとともに2021年2月19日に火星のジェゼロ・クレーターに着陸しました。それから2か月後の2021年4月19日、Ingenuityは「地球以外の天体における航空機による制御された動力飛行」を人類史上初めて成し遂げた航空機として、その名を歴史に刻んでいます。

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【▲ Perseveranceが撮影したIngenuity初飛行の様子(動画)(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)】

NASAのジェット推進研究所(JPL)によると、2021年12月5日に行われた17回目の飛行においてIngenuityの総飛行時間は30分を超え、合計30分48秒に達しました。12月27日現在、Ingenuityは18回目の飛行にも成功しており、総飛行時間はさらに2分4.3秒増えています。Ingenuityのミッションは火星探査における航空機運用の可能性を最大5回の飛行で実証するという当初の目標を超えて、Perseveranceの活動に役立てるための画像を実際に撮影する段階に入っています。

いっぽう、Ingenuityを火星に運んだPerseveranceは、12月20日までに5本の岩石サンプル採取を終えています。これらのサンプルはNASAと欧州宇宙機関(ESA)が共同で取り組む一連のミッションによって、早ければ10年後に地球へ持ち帰られる予定です。

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火星探査車「Perseverance」(右)が撮影したセルフィー。画像中央付近の火星表面には火星ヘリコプター「Ingenuity」も写っている(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)

【▲ 火星探査車「Perseverance」(右)が撮影したセルフィー。画像中央付近の火星表面には火星ヘリコプター「Ingenuity」も写っている(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)】

また、Perseveranceに搭載されている蛍光X線分析装置「PIXL」による岩石の化学組成の分析結果から、ジェゼロ・クレーターの岩盤が火成岩であることが明らかになっています。JPLによると、2021年11月にPIXLを用いて分析した岩石には輝石の結晶に囲まれたカンラン石の大きな結晶が豊富に含まれており、厚い溶岩流溶岩湖、あるいは地下のマグマ溜まりがゆっくりと冷える過程で形成されたことを示しているといいます。

ジェゼロ・クレーターの岩盤はかつて火星の表面を水が流れていた時期に形成された堆積岩か、あるいは火山活動にともなう溶岩流によって形成された火成岩である可能性が予想されていたといいますが、PIXLの分析結果は後者の説を支持するものとなりました。ただ、分析された岩が表面で冷えた溶岩流や溶岩湖で形成されたのか、それとも地下で形成された後に侵食作用によって地表へ露出したのかはまだわかっていません。

Perseveranceが2本のサンプルを採取した岩「ロシェット」(中央)。採取時に空けられた穴が2つ(右:1本目、左:2本目)見えている(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ Perseveranceが2本のサンプルを採取した岩「ロシェット」(中央)。採取時に空けられた穴が2つ(右:1本目、左:2本目)見えている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

なお、Perseveranceの紫外線ラマン分光装置「SHERLOC」を用いた分析では、ジェゼロ・クレーターの岩石に有機化合物が含まれていることも明らかになりました。

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有機化合物は非生物的なプロセスで生成されることもあるため、必ずしも生命の兆候を意味するとは限りません。ただ、どのようなプロセスで生成されたものであるにせよ、古代の岩石に有機化合物が保存されているということは、サンプルから古代の(場合によっては現在の)生命に由来する有機化合物が見つかる可能性もあるわけです。

Perseveranceが火星で採取し、無人探査機のリレーによって地球へ持ち帰られる予定の岩石サンプル。地上の研究設備で分析される日が今から待ち遠しいです。

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PerseveranceのCacheCamが撮影した密閉前のサンプル保管容器266番の内部。中央に見えているのが採取された岩石のコアサンプル(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ PerseveranceのCacheCamが撮影した密閉前のサンプル保管容器266番の内部。中央に見えているのが採取された岩石のコアサンプル(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

 

Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA
文/松村武宏