非常に目立つ環を持つ「土星」は、太陽系の惑星の中でもとても際立つ存在です。1610年にガリレオ・ガリレイによって初めて観測されて以来、土星の環は常に関心と研究の対象であり続けてきました (※) 。現在では環を持つ天体が他にも見つかっていますが、土星ほどはっきりとしたものではありません。では、なぜ土星だけが立派な環を持っているのでしょうか?また、環はいつ頃作られたものなのでしょうか?

※…ただし、望遠鏡の精度の問題から、ガリレオは環であると認識できていませんでした。環であると初めて認識されたのは、1655年にクリスティアーン・ホイヘンスによってでした。

20世紀の末頃まで、環は土星と共に形成されたという考えが主流でした。この考えに従えば、土星の環は約46億年前に形成されてから現在まで存続してきたことになります。

しかし、土星に探査機を送り込み、環を非常に近くから観測できる時代になると、この考えには疑問が持たれるようになってきました。土星の環が余りにもキレイすぎることが主な理由です。

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【▲ 図1: 土星の環は衛星と比べて非常に大きいが、質量は直径約400kmの衛星ミマスの半分程度と推定されている。画像左下に小さな白い点として写っているのがそのミマスである。 (Image Credit: NASA/JPL/Space Science Institute) 】
【▲ 図1: 土星の環は衛星と比べて非常に大きいが、質量は直径約400kmの衛星ミマスの半分程度と推定されている。画像左下に小さな白い点として写っているのがそのミマスである(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)】

掃除をしないでいると床や家具に埃が少しずつ積もっていくように、宇宙空間でも微小隕石 (Micrometeoroid) などの岩石質の塵が天体へと降り積もっていきます。土星の環は主に水の氷でできていますが、 “環を掃除する人” はいないため、微小隕石が降り積もることで環の成分は岩石の割合が増えていき、色も段々と黒ずんでいくことになるはずです。

薄く広がった環は衛星と比べてはるかに面積が大きいので、それだけ塵が降り積もりやすく、変色もしやすいことになります。例えば、土星の環の質量は直径約400kmの衛星ミマスの半分と推定されていますが、面積はミマスの9万倍以上もあるのです。

ところが、実際には土星の環の95%以上 (質量比) は氷でできていることが判明しています。46億年前という環の形成年代が正しいとする場合、環がこれほどキレイな状態に保たれている事実と矛盾していると考えることもできます。そのため、環の正確な形成年代を見積もるには、塵が実際にどれくらいの速度で環に降り積もるのかをなるべく正確に推定しなければなりません。

【▲ 図2: 土星探査機カッシーニに搭載された宇宙塵測定器のCG。大きなバケツのような構造をしており、バケツに入り込んだ塵の速度や成分、電荷などを測定することができる。 (Image Credit: NASA) 】
【▲ 図2: 土星探査機カッシーニに搭載された宇宙塵測定器のCG。大きなバケツのような構造をしており、バケツに入り込んだ塵の速度や成分、電荷などを測定することができる(Credit: NASA)】

コロラド大学ボルダー校のSascha Kempf氏らの研究チームは、NASA(アメリカ航空宇宙局)とESA (欧州宇宙機関) が打ち上げた土星探査機「カッシーニ」のデータを元に、土星の衛星と環の年齢を推定しました。

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カッシーニに搭載されていた観測機器の1つ「宇宙塵計測器(Cosmic Dust Analyzer)」は、文字通り宇宙に漂う塵などの粒子状物質を計測することに特化しています。カッシーニが土星を周回していた13年の間に、宇宙塵計測器は土星の外に由来することが確実か、またはその可能性が高い塵を合計173個検出しました。この結果から、土星の環に降り積もる塵の量は、1平方mあたり1年間で8µgであると計算することができます。これはほぼミジンコ1匹分の重さに相当します。

しかし「塵も積もれば山となる」という言葉通り、この量でも土星の環は “あっという間” に汚染されるようです。土星の環にこの速度で塵が降り積もった場合、現在の環に含まれる岩石成分の量に達する時間は、どんなに長くても4億年未満であると推定されます。

つまり、現在の土星の環は形成されてから4億年未満であることになります。これは土星本体の年齢である46億年の10分の1以下であり、天文学的に言えば非常に短い期間です。さらに、4億年未満というのは最大限長く見積もった場合の数値であり、条件次第ではもっと短い1億年未満の可能性すらあります。

過去の研究により、土星の環を構成する物質は土星に落下しており、環は1億年以内に消えてしまうのではないかと予想されています。これらの予想が正しければ、人類は土星に環が存在するほんの一瞬の期間に天文学の技術を発展させるに至ったことになります。雄大な土星の環を眺められる私たちは、とても幸運であると言えるでしょう。

ただし、これがどの程度の幸運であったのか、つまり土星の環は今回の一度しか形成されたことがないのか、あるいは過去に何度も形成と消滅を繰り返していたのかは、今回の研究では不明のままです。この疑問は、環の起源についての調査をさらに進めることで判明するかもしれません。

例えば、過去に砕けた巨大な衛星の破片が環の起源だとする説がありますが、今回の研究ではこの点は検証されていません。土星の環にはまだまだ謎が残されています、これからの観測や研究に期待しましょう。

 

Source

  • Sascha Kempf, et.al. “Micrometeoroid infall onto Saturn’s rings constrains their age to no more than a few hundred million years”. (Science Advances)
  • Daniel Strain. “How old are Saturn’s rings? Far younger than once thought, according to new study”. (University of Colorado, Boulder)
  • James O’Donoghue, et.al. “Observations of the chemical and thermal response of ‘ring rain’ on Saturn’s ionosphere”. (Icarus)
  • J. H. Waite Jr., et.al. “Chemical interactions between Saturn’s atmosphere and its rings”. (Science)

文/彩恵りり

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