観測史上最強のガンマ線バースト「GRB 221009A」は地球の電離圏にも影響を及ぼした
【▲ ガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」がX線で観測したガンマ線バースト「GRB 221009A」の残光(Credit: NASA/Swift/A. Beardmore (University of Leicester))】
【▲ ガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」がX線で観測したガンマ線バースト「GRB 221009A」の残光(Credit: NASA/Swift/A. Beardmore (University of Leicester))】

こちらは、「や座」(矢座)の方向で発生したガンマ線バースト「GRB 221009A」の残光X線の波長で捉えた画像です。アメリカ航空宇宙局(NASA)のガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト(Neil Gehrels Swift)」によって、ガンマ線バーストの検出から約1時間後に取得されました。中央に明るく写っているのがGRB 221009Aの残光で、その周囲には何本かのリングも見えています。このリングは光のエコー(こだま)と呼ばれる現象で、はるか彼方から届いたX線が天の川銀河に存在する塵によって散乱したことで生じています。

日本時間2022年10月9日夜、GRB 221009AはNASAのスウィフト衛星やガンマ線観測衛星「フェルミ(Fermi)」などによって最初に検出されました。その後はさまざまな宇宙望遠鏡や地上の望遠鏡による残光の観測が行われています。NASAによると、GRB 221009Aは観測史上最も明るいガンマ線バーストのひとつだったようです。

■約19億年前の超新星爆発にともなって発生か 地球では突発性電離圏擾乱も

【▲ ブラックホールの誕生にともなって発生したガンマ線バーストの想像図。光速に近い強力なジェットが恒星の外層を突き抜けている様子が描かれている(Credit: NASA/Swift/Cruz deWilde)】
【▲ ブラックホールの誕生にともなって発生したガンマ線バーストの想像図。光速に近い強力なジェットが恒星の外層を突き抜けている様子が描かれている(Credit: NASA/Swift/Cruz deWilde)】

ガンマ線バースト(GRB:gamma-ray burst)とは、短い時間で爆発的に放出されたガンマ線が観測される突発的な現象です。ガンマ線バーストは継続時間で区別されていて、2秒より短いものはショートガンマ線バースト、2秒より長いものはロングガンマ線バーストと呼ばれています。

ガンマ線バーストの起源は超新星爆発中性子星どうしの合体ではないかと考えられていますが、まだ完全には理解されていません。GRB 221009Aの場合は、約19億年前に起きた大質量星の超新星爆発にともなって発生したと考えられています。NASAによれば、フェルミ衛星は10時間以上に渡ってGRB 221009Aを観測しました。

このように数時間以上に渡って継続することがあるロングガンマ線バーストは、大質量星の中心部が崩壊してブラックホールが誕生する時、その両極方向に噴出する光速に近い強力なジェットが恒星の外層を突き抜けることで発生すると考えられています。内部でブラックホールが形成された恒星は、この直後に超新星爆発を起こして吹き飛ぶとされています。

【▲ ガンマ線観測衛星「フェルミ」によるGRB 221009A(中央)の10時間以上に渡るガンマ線観測データから作成されたアニメーション。明るいほどガンマ線強度が強いことを示している(Credit: NASA/DOE/Fermi LAT Collaboration)】
【▲ ガンマ線観測衛星「フェルミ」によるGRB 221009A(中央)の10時間以上に渡るガンマ線観測データから作成されたアニメーション。明るいほどガンマ線強度が強いことを示している(Credit: NASA/DOE/Fermi LAT Collaboration)】

地上からGRB 221009Aの追跡観測を行った大学院生Brendan O'Connorさん(メリーランド大学/ジョージ・ワシントン大学)は「GRB 221009Aはこれまでに記録された最も明るいガンマ線バーストであり、電磁波のあらゆる波長で記録を更新しました」とコメントしています。O'Connorさんはチリのセロ・パチョンにあるジェミニ天文台の「ジェミニ南望遠鏡」による追加観測を行ったチームの1つを率いました。

米国科学財団(NSF)国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)の発表によれば、中国の高標高地宇宙線観測所(LHAASO)で検出された光子のエネルギーは18TeV(テラ電子ボルト)に達しました。GRB 221009AからのX線やガンマ線が到達した地球では突発性電離圏擾乱(SID、デリンジャー現象)が発生し、長波(周波数30~300kHzの電波)無線通信の信号強度変化が確認されたといいます。参考として、ヒッグス粒子の発見に貢献した欧州原子核研究機構(CERN)の粒子加速器「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」の最大衝突エネルギーは13TeVです。

【▲ 2022年10月14日にジェミニ南望遠鏡で撮影されたGRB 221009Aの残光(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/B. O'Connor (UMD/GWU) & J. Rastinejad & W Fong (Northwestern Univ); Image Processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF’s NOIRLab), J. Miller, M. Zamani & D. de Martin (NSF’s NOIRLab))】
【▲ 2022年10月14日にジェミニ南望遠鏡で撮影されたGRB 221009Aの残光(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/B. O'Connor (UMD/GWU) & J. Rastinejad & W Fong (Northwestern Univ); Image Processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF’s NOIRLab), J. Miller, M. Zamani & D. de Martin (NSF’s NOIRLab))】

GRB 221009Aがこれほどまでに明るく、そして長時間に渡って観測された理由のひとつとして、一般的なガンマ線バーストと比べて地球に比較的近い場所で発生したことが考えられるようです。ここまで明るいガンマ線バーストは、今後何十年も観測されないかもしれません。GRB 221009Aの観測データからは、恒星の重力崩壊、ブラックホールの誕生、光速に近い速度で運動する物質の振る舞いや相互作用、遠方銀河の状態などに関する新たな知見が得られると期待されています。

 

関連:約130億年かけて届いた光。ガンマ線バーストの残光をVLTが撮影

Source

  • Image Credit: NASA/Swift/A. Beardmore (University of Leicester), NASA/Swift/Cruz deWilde, NASA/DOE/Fermi LAT Collaboration, International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/B. O'Connor (UMD/GWU) & J. Rastinejad & W Fong (Northwestern Univ); Image Processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF’s NOIRLab), J. Miller, M. Zamani & D. de Martin (NSF’s NOIRLab)
  • NASA - NASA’s Swift, Fermi Missions Detect Exceptional Cosmic Blast
  • NOIRLab - Record-Breaking Gamma-Ray Burst Possibly Most Powerful Explosion Ever Recorded

文/松村武宏