視界を埋め尽くすように輝く星々 球状星団「ターザン1」
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡のACSとWFC3で撮影された球状星団ターザン1(Credit: ESA/Hubble & NASA, R. Cohen)】
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡のACSとWFC3で撮影された球状星団ターザン1(Credit: ESA/Hubble & NASA, R. Cohen)】
【▲ ハッブルのACSとWFC3で撮影された球状ターザン1(Credit: ESA/Hubble & NASA, R. Cohen)】

こちらは「さそり座」の方向約2万2000光年先にある球状「ターザン1(Terzan 1)」です。球状とは、数万~数百万個の恒星が球状に集まっている天体のこと。天の川銀河ではこれまでに150個ほどの球状が見つかっています。視野全体を埋め尽くすように輝く星々と、その色のコントラストに美しさを感じる天体です。

天の川銀河の中心がある「」や、その隣にある「さそり座」の方向には、星々が集まっている銀河中心部分の膨らみ「銀河バルジ」があります。バルジには星だけでなくガスや塵も集まっていて、さそり座やの方向では塵が豊富な暗黒星雲も帯のように連なっています。

塵には星から放射された光(特に波長の短い青色光)を吸収・散乱させやすい性質があるので、星からの光をさえぎったり、実際よりも赤っぽく見えるように変えてしまったりします。ただし、可視光線の赤色光や近赤外線といった一部の波長は塵を比較的通過しやすいため、塵の向こう側にある天体を観測するのに役立ちます。

この画像は、「ハッブル」に搭載されている「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」および「広視野カメラ3(WFC3)」を使って取得された画像(可視光線と赤外線のフィルター合計3種類を使用)をもとに作成されました。人の目は赤外線を捉えることはできないため、フィルターを通して取得されたモノクロ画像を波長の短いものから順に青・緑・赤で着色し、合成することでカラー画像が作成されています。

ACSとWFC3は、1990年4月のハッブル打ち上げ後に実施されたスペースシャトルによるサービスミッションで後から取り付けられたカメラです(※)。WFC3が取り付けられる前のハッブルには「広域惑星カメラ2(WFPC2)」が搭載されていましたが、ターザン1はWFPC2が使われていた頃のハッブル宇宙望遠鏡でも撮影されたことがあります。本記事の最後に掲載した画像に写っているのが、WFPC2で撮影されたターザン1です。画像を公開した欧州宇宙機関(ESA)が言及しているように、最初に掲載したターザン1の画像と比較すると、より広い視野と優れた解像力を併せ持つカメラを搭載したハッブル宇宙望遠鏡の性能向上が感じられます。

※…ACSは2002年3月のコロンビアによるSTS-109ミッションで、WFC3はWFPC2と入れ替える形で2009年5月のアトランティスによるSTS-125ミッションで取り付け。

冒頭の画像はハッブル宇宙望遠鏡の今週の一枚として、ESAから「Terzan 1, Take 2(ターザン1のテイク2)」と題して2022年10月10日付で公開されています。

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されていた広域惑星カメラ2(WFPC2)で撮影された球状星団ターザン1(オリジナルを右に90度回転。Credit: NASA & ESA, Acknowledgement: Judy Schmidt (Geckzilla))】
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されていた広域惑星カメラ2(WFPC2)で撮影された球状星団ターザン1(オリジナルを右に90度回転。Credit: NASA & ESA, Acknowledgement: Judy Schmidt (Geckzilla))】

 

関連:ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した“さそり座”の球状星団「ターザン4」

Source

  • Image Credit: ESA/Hubble & NASA, R. Cohen
  • ESA/Hubble - Terzan 1, Take 2
  • ESA/Hubble - A home for old stars

文/松村武宏