
こちらは、火星の北半球に広がる高地「アラビア大陸(Arabia Terra)」の一角を、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の火星探査機「マーズ・エクスプレス(Mars Express)」に搭載された「高解像度ステレオカメラ(HRSC)」が捉えた画像です。

アラビア大陸は火星でも屈指の古い地域で、形成から約37億〜41億年が経過していると考えられています。長い年月のあいだに無数の天体衝突を受けたことで、周囲には数多くのクレーターが刻まれています。画像の右側に大きく広がっているのが、直径約130kmの「トルーヴェロ・クレーター(Trouvelot Crater)」です。19世紀に精密な天体スケッチで知られたフランスの天文学者エティエンヌ・レオポルド・トルーヴェロにちなんで名付けられました。DLR(ドイツ航空宇宙センター)は、映画「オデッセイ」の主人公マーク・ワトニーの移動ルートがこの付近を通ることにも触れています。
このクレーターで特に興味深いのが、底部に見られる長さ約20kmの明るい丘です。クレーター底を覆う暗い砂の中で、この丘だけが白っぽく際立っています。分光観測では、この明るい堆積物に粘土鉱物や硫黄を含む鉱物が含まれることが示唆されており、いずれも水の関与を示す重要な手がかりとされています。かつてクレーター内に湖が存在して堆積物がたまった可能性や、地下水が上昇して地表物質と反応しながら層を作った可能性などが考えられています。約300km北東にある「ベクレル・クレーター(Becquerel Crater)」にも似た明るい丘が見られますが、その成因はまだはっきりしていません。
クレーター底を埋める暗色物質も見どころです。これらは苦鉄質鉱物に富む暗い砂で、地下の火山性堆積物が衝突で露出し、その後に風で運ばれた可能性が指摘されています。風によって形づくられた三日月形の「バルハン砂丘」も確認されており、地球の砂漠地形との共通性もうかがえます。
この画像はESAが2026年3月4日付で公開したもので、元になった観測データは2024年10月12日に取得されました。
文・編集/sorae編集部
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