ロシア航空宇宙防衛部隊(VKO)は10月30日、通信衛星ミリディアーンの7号機を搭載したソユーズ2.1a/フレガートMロケットの打ち上げに成功した。フレガート上段が飛行したのは、今年8月に欧州の全地球測位システム・ガリレオを構成する衛星2機の打ち上げに失敗して以来となる。

ロケットはモスクワ時間2014年10月30日4時43分(日本時間2014年10月30日10時43分)、ロシア北西部アルハンゲリスク州にあるプレセツク宇宙基地の43/3発射台から離昇した。ロケットは順調に飛行し、約8分後にロケットからフレガートMが分離された。

その後フレガートMは3回に分けた燃焼を行い、モスクワ時間6時58分12秒(日本時間12時58分12秒)に衛星を所定の軌道へ投入した。

また米国の宇宙監視ネットワークは、この時間帯に新たな物体が2つ、軌道上に追加されたことを探知している。それによれば、2014-069Aは近地点高度968km、遠地点高度39,749km、傾斜角62.81度の軌道を、また2014-069Bは近地点高度799km、遠地点高度39,614km、傾斜角62.78度の軌道を周回している。おそらく2014-069Aがミリディアーンの7号機、2014-069BがフレガートMと推測される。また、この軌道は過去に打ち上げられたミリディアーンとほぼ同じであり、打ち上げが成功したことは間違いないと思われる。

ミリディアーンはロシアが運用する通信衛星で、製造はISSレシェトニェーフ社が担当した。ミリディアーン(Меридиан)とは経線、子午線などの意味だ。

衛星に関する情報はあまり明らかにされていないが、同社によれば「船舶や航空機、地上局間の通信を提供する」と紹介されている。おそらくは軍用の通信を担っていると考えられる。また衛星バスには、第2世代のGLONASS衛星であるGLONASS-M(ウラガーンM)と同じものが用いられているとされる。

また投入されている軌道が、かつてモールニヤと名付けられた衛星が配備されていた、大きな傾斜角を持つ楕円軌道(いわゆるモールニヤ軌道)に打ち上げられていることから、モールニヤ衛星の後継機であると考えられている。モールニヤ軌道は静止軌道に比べ、高緯度地域での通信に適している。

ミリディアーンは2006年12月24日に1号機が打ち上げられ、配備が始まった。しかし2009年5月21日に打ち上げられた2号機は、フレガートの問題により予定していた軌道に投入できなかった。ただし衛星側のスラスターで挽回は可能であるとされ、打ち上げは成功と発表されている。

その後2010年11月2日に3号機、2011年5月4日に4号機の打ち上げに成功する。しかし同じく2011年の12月23日に打ち上げられた5号機は、ソユーズ2.1bロケットの第3段ロケットエンジンRD-0124に問題が起き、打ち上げに失敗し、地球に墜落した。

ミリディアーンの打ち上げにはもっぱら、今回のようにソユーズ2.1a/フレガート、もしくはフレガートMが使われているが、この5号機の打ち上げのみ、ソユーズ2.1b/フレガートMロケットが使われた。理由は不明である。

2012年11月14日にはソユーズ2.1a/フレガートMで6号機の打ち上げに成功している。

なお、いくつかの情報源によれば、ミリディアーンの打ち上げは今回が最後となり、また2016年からは後継機の打ち上げが開始される予定とされる。

ロシアはミリディアーンの稼働状況を公表していないが、2006年に打ち上げられた1号機は、2009年にスペース・デブリとの衝突により機能を喪失したとされる。したがって、仮に他の打ち上げに成功した衛星がすべて稼動しているとすれば、現在軌道上には5機が配備されていることになる。

ソユーズ2.1aは、ロシアのソユーズUやソユーズFGの後継機として開発されたソユーズ2シリーズのひとつで、エンジンの改良と、制御システムなどの電子機器の全面的な近代化がされている。特に後者においては、機器の軽量化と、飛行プロファイルの最適化が可能になったこと、打ち上げ能力の向上につながっている。またウクライナなどから買っていた部品を無くし、ロシア製の部品のみで造られている点も大きな特徴だ。

1号機は2004年11月8日にサブオービタル(軌道に乗らない)飛行での試験を実施し、2006年10月19日の2号機で、初の人工衛星を搭載した打ち上げに成功した。それ以来、ロシアの通信衛星や航法衛星、偵察衛星などの打ち上げに使用されている。ソユーズ2.1aは今回までに17機が打ち上げられ、2009年に1度、予定より低い軌道に衛星を投入してしまった以外は、成功を収めている。

また2006年には、第3段により高性能なロケットエンジンを装備し、打ち上げ能力を向上させたソユーズ2.1bも登場し、13機が打ち上げられているが、2011年には、まさにその新しい第3段エンジンが原因で打ち上げに失敗している。前述した通り、このときの積荷はミリディアーンの5号機だった。

さらにソユーズ2はアリアンスペース社も輸入し、運用が行われている。こちらはST型と呼ばれる大型のフェアリングを搭載し、ソユーズ2.1aはソユーズST-A、ソユーズ2.1bはソユーズST-Bと名付けられ、これまでに計9機が打ち上げられている。つまりソユーズ2シリーズは計39機が打ち上げられていることになる(ただし第1段がまったく異なるソユーズ2.1vは含まない)。

今回の打ち上げは、上段のフレガートMにとって、今年8月に衛星を予定していた軌道に投入できなかった事故以来、初の飛行であった。

フレガートはロシアのNPOラーヴォチキン社によって開発・製造されている上段で、ソユーズやゼニート・ロケットで使われている。非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素を推進剤とし、最大3日間の軌道滞在と、20回以上ものエンジンの再着火が可能だ。またタンク形状が異なるいくつかの種類が存在し、今回のミッションで使われたのはフレガートMと名付けられたバージョンだ。

くだんの事故を起こしたのは、そのバリエーションのひとつの、フレガートMTで、欧州版GPSことガリレオ計画で使われる衛星2機を載せ、ソユーズ2.1bロケットでギアナ宇宙センターから打ち上げられたものの、計画から大きく外れた軌道に衛星を投入してしまった。その後の調査で、設計ミスにより、飛行中に姿勢制御スラスターの燃料の配管が凍り、詰まってしまったことで、正常な姿勢を保てなくなったことが原因と結論付けられている。

失敗後、製造元のNPOラーヴォチキン社では、フレガート・シリーズの設計変更などが行われたとされ、今回の成功は、信頼性回復に向けた第一歩となった。

なお、今年10月15日には、ロシアのコメルサント紙などが、今回の打ち上げで使われたフレガートMを輸送中の貨物列車が、走行中に脱線したと報じた。

コメルサント紙の記事やイタル・タス通信などの記事によれば、事故が起きたのは10月はじめのことで、フレガートMを貨物列車に載せ、プレセツク宇宙基地内の燃料充填施設へ運んでいた際に、車軸の1本が外れて脱線したという。またRussianSpaceWebが報じたところによれば、脱線から停止までの間に3から5mほど移動し続けたとのことだ。

事故後、コンテナの中に入っていたフレガートMは検査を受けることになったが、幸いにも損傷などは見つからなかったとされる。当時、打ち上げは10月22日に予定されていたが、実際に打ち上げられたのは10月30日であった。この脱線事故と、その後の検査が影響したかは不明だ。

 

■Войска воздушно-космической обороны провели запуск космического аппарата связи «Меридиан» : Министерство обороны Российской Федерации
http://structure.mil.ru/structure/forces/cosmic/news/more.htm?id=11997825@egNews