
こちらは「おうし座(牡牛座)」の方向約1500光年先の惑星状星雲「NGC 1514」です。中心で輝く星をふわふわとした2つのリングが挟み込むように取り囲む不思議なその姿は、見る人によって様々な印象を与えそうです。

2つのリングを形作るのは老いた恒星から放出された塵
惑星状星雲とは、超新星爆発を起こさない比較的軽い恒星(質量は太陽の8倍以下)が、恒星としての生涯を終える頃にその周囲で形成される天体です。太陽のような恒星が晩年を迎えると主系列星から赤色巨星に進化し、外層から周囲へとガスや塵(ダスト)を放出するようになります。
やがて、ガスを失った星が赤色巨星から白色矮星へと移り変わる段階(中心星)になると、放出されたガスが星から放射された紫外線によって電離して光を放ち、惑星状星雲として観測されるようになります。
NGC 1514の場合、中心にあるのは細長い楕円軌道を9年周期で公転し合う連星だとする研究成果が2017年に発表されています。膨張してガスと塵を放出した片方の星と、連星をなすもう片方の星が相互作用をしたことで、球対称ではなくリング状の構造をともなう星雲が形成された可能性があるようです。私たちが見ているのは形成から4000年ほど経った段階であり、今後も数千年かけて変化し続けると予想されています。
この画像は「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータを使って作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は主に赤外線の波長で観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。
ウェッブ宇宙望遠鏡を運用するアメリカのSTScI=宇宙望遠鏡科学研究所によると、リングは非常に細かな塵の粒子で構成されていると考えられています。白色矮星が放射する紫外線を浴びた塵はわずかに加熱され、ウェッブ宇宙望遠鏡のMIRIで検出できる程度に温まるとみられています。
2つのリングは円筒形を形作っているようにも見えますが、実際には両端を切り落とした砂時計のような形をしている可能性が高いようです。たしかに、右下のリングの間にあるオレンジ色に着色された雲は星雲の中心に向かってへこんでいて、砂時計の“くびれ”の痕跡にも見えますね。
また、MIRIの観測データを分析したところ、惑星状星雲でよく見られるという多環芳香族炭化水素(PAH)は検出されませんでした。このことから、放出された物質が連星の運動によって混ざり合うことで、より複雑な分子の形成が妨げられた可能性もあると考えられています。
冒頭のNGC 1514の画像はSTScIをはじめ、NASA=アメリカ航空宇宙局やESA=ヨーロッパ宇宙機関(欧州宇宙機関)から2025年4月14日付で公開されています。ちなみに私(筆者)はNGC 1514の形がライスバーガーに見えてしまいました……。皆さんは何を思い浮かべましたか?
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- STScI - With NASA's Webb, Dying Star's Energetic Display Comes Into Full Focus
- NASA - With NASA’s Webb, Dying Star’s Energetic Display Comes Into Full Focus
- ESA - Webb brings dying star's energetic display into full focus
- ESA/Webb - Dying star's energetic display comes into full focus